碓井広義ブログ

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「鎌倉殿の13人」 「超訳」のセリフが笑いと親近感

2022年01月16日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評

 

 

<週刊テレビ評>

「鎌倉殿の13人」 

「超訳」のセリフが笑いと親近感

 

笑った、笑った。NHKの大河ドラマで、こんなに笑ったのは初めてかもしれない。9日から始まった「鎌倉殿の13人」だ。

このドラマ、乱暴に言えば「よく知らない時代の、あまり知らない人たちの物語」である。大河でおなじみの戦国でも幕末でもない中世の鎌倉時代。主人公は鎌倉幕府を創設した源頼朝でも、その有名な弟である義経でもない北条義時。つい「それって誰?」と聞き返したくなる。

しかし、この「義時、Who?」こそ、脚本家・三谷幸喜の狙いだろう。三谷が過去に手掛けた「新選組!」や「真田丸」に登場したのは歴史上の有名人ばかり。「近藤勇はこんな男じゃない」「真田幸村を誤解している」などと外野がうるさかったはずだ。

その点、皆が知らない時代、知らない人物はいい。書き手としての自由度が違う。史実の引力に負けない「予測不能」の物語が可能になる。

それにしても、初回の三谷は見事だった。どんな人たちによる、どんな物語なのかを、しっかり宣言していたのだ。出だしの基調は北条家のホームドラマである。主人公の義時(小栗旬)は、わがまま勝手な家族に振り回される、心優しき次男坊といった役柄だ。

父の時政(坂東弥十郎)は突然の再婚宣言。兄の宗時(片岡愛之助)は平家憎さで暴走。姉の政子(小池栄子)は流罪人である頼朝(大泉洋)に猛アタック。義時は彼らをなだめたりすかしたりしながら、北条家が危機に陥らないようにと奔走する。その高度な「調整能力」の導く先が、鎌倉幕府の二代目執権ではなかったか。

しかも北条家の面々が、それぞれに笑えるキャラクターなのだ。早すぎる再婚を家族から問われた父は「さみしかったんだよ~」と甘える。頼朝を助けるという犯罪的行為を父に告げられない兄は、「お前、言っといてくれ」と弟に押しつけようとする。それを聞いて、「これだよ!」とあきれる弟。まるで現代のホームドラマの雰囲気だが、親近感を増幅させている一因は彼らが話す言葉だ。

今回の大河のセリフ、現代語訳というより三谷流「超訳」と呼びたい。言語学的正確さではなく、生き生きとした会話を大事にした英断だ。おかげで俳優たちは、演じる人物が持つ「おかしみ」を含め、微妙なニュアンスも表現することができる。

さて見る側の心構えだが、歴史の知識や番組情報をあまり仕入れないことが望ましい。真っさらな状態で予測不能の展開を楽しむのが一番だ。先が読めないという意味で、義時たちが生きた時代は現代にもしっかり通じている。

(毎日新聞 2022.01.15夕刊)