碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

週刊新潮に『脚本力(きゃくほんりき)』の書評

2022年10月28日 | 本・新聞・雑誌・活字

 

 

発売中の「週刊新潮」に、

『脚本力(きゃくほんりき)』の書評が

掲載されました。

 

評者は、サイエンスライターの佐藤健太郎さん。

ありがとうございます!

 

 

 

巨匠の世界構築力に迫る

『脚本力』

倉本聰、聞き手・碓井広義

幻冬舎新書 1034円

 

評者:佐藤健太郎(サイエンスライター)

 

筆者は一応物書きの端くれではあるが、テレビドラマの脚本家の頭の中というのはいったいどうなっているのか、全く想像さえつかない。

俳優たちの魅力を余すところなく引き出しつつ、視聴者を飽きさせないような長大なストーリーを組み上げ、しかも各話にきちんと山場を作る。

場合によっては途中での筋書の変更といった芸当さえやってのけるのだから、彼らの能力は神秘的とすら感じる。

『脚本力(りき)』は、「北の国から」などで知られる脚本家・倉本聰の創作の秘密に、碓井広義が聞き手として迫った一冊だ。

驚くべきは、創作の過程を示すために、わざわざ新作の脚本が一本書き下ろされていることだ。

そしてこれが、現代社会の諸断面を取り込んだ抜群に面白いストーリーに仕上がっているのだから、八七歳の巨匠の力に呆れ返る他ない。また、それを伝える本書の構成も実に見事だ。

面白いのは、ストーリーの構築やドラマの構成などではなく、人物の造形に最も時間をかけている点だ。

主要登場人物の処女・童貞喪失の時期、過去に住んでいた街の地図まで作り込むというから、創作とはこういうことなのかと感じ入ってしまう。

テレビ局もドラマに制作費をかけられなくなっている現在、残念ながらこうした脚本の技術も受け継がれにくい状況なのかもしれない。

本書中の脚本もあえて未完とし、後は若い才能に書き継いでほしいとしているのは、後継者の出現を望む気持ちの現れだろうか。

(週刊新潮 2022.11.03号)