「週刊新潮」に寄稿した書評です。
里中満智子『漫画を描く~凛としたヒロインは美しい』
中央公論新社 1760円
著者の漫画家デビューは高校2年生だった1964年。大人数の団塊世代ゆえに、「自分1人で食べていく方法」として漫画家を目指した。高校生とプロの漫画家の両立を学校が禁じると自主退学。大阪から上京して漫画に専念する。本書は画業60年を記念する本格自伝だ。昭和の漫画家事情をはじめ、『アリエスの乙女たち』や『天上の虹』など、ヒット作の背景や作品に込めた思いが明かされる。
大矢博子
『クリスティを読む!~ミステリの女王の名作入門講座』
東京創元社 1980円
アガサ・クリスティの作品はなぜ愛され続けるのか。物語の背景は彼女が生きた時代だが、ミステリとして「まったく古びない」と書評家の著者。その魅力を多角的に解説している。ポアロが異邦人であることに注目して読む『スタイルズ荘の怪事件』。英国社会の目撃者、ミス・マープルが謎を解く『書斎の死体』。さらに「舞台と時代」や「人間関係」といった視点で作品世界へと導いていく。
前田啓介
『おかしゅうて、やがてかなしき
~映画監督・岡本喜八と戦中派の肖像』
集英社新書ノンフィクション 1485円
2005年に81歳で亡くなった岡本喜八監督。生まれは1924年で、今年は生誕100年にあたる。岡本は終戦時に21歳だった「戦中派」だ。著者は自ら発見した、大学時代から東宝入社にかけての岡本の日記も精査。『肉弾』や『日本のいちばん長い日』などの作品に投影された、戦中派の心情を丁寧に探っていく。「何を言いたいか、その熱気が人の心を打つ」と語った“全身監督”の実像が立ち現れる。
(週刊新潮 2024.03.07号)