碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【新刊書評2024】 里中満智子『漫画を描く』ほか

2024年03月08日 | 書評した本たち

 

 

「週刊新潮」に寄稿した書評です。

 

里中満智子『漫画を描く~凛としたヒロインは美しい』

中央公論新社 1760円

著者の漫画家デビューは高校2年生だった1964年。大人数の団塊世代ゆえに、「自分1人で食べていく方法」として漫画家を目指した。高校生とプロの漫画家の両立を学校が禁じると自主退学。大阪から上京して漫画に専念する。本書は画業60年を記念する本格自伝だ。昭和の漫画家事情をはじめ、『アリエスの乙女たち』や『天上の虹』など、ヒット作の背景や作品に込めた思いが明かされる。

 

大矢博子

『クリスティを読む!~ミステリの女王の名作入門講座』

東京創元社 1980円

アガサ・クリスティの作品はなぜ愛され続けるのか。物語の背景は彼女が生きた時代だが、ミステリとして「まったく古びない」と書評家の著者。その魅力を多角的に解説している。ポアロが異邦人であることに注目して読む『スタイルズ荘の怪事件』。英国社会の目撃者、ミス・マープルが謎を解く『書斎の死体』。さらに「舞台と時代」や「人間関係」といった視点で作品世界へと導いていく。

 

前田啓介

『おかしゅうて、やがてかなしき

  ~映画監督・岡本喜八と戦中派の肖像』

集英社新書ノンフィクション 1485円

2005年に81歳で亡くなった岡本喜八監督。生まれは1924年で、今年は生誕100年にあたる。岡本は終戦時に21歳だった「戦中派」だ。著者は自ら発見した、大学時代から東宝入社にかけての岡本の日記も精査。『肉弾』や『日本のいちばん長い日』などの作品に投影された、戦中派の心情を丁寧に探っていく。「何を言いたいか、その熱気が人の心を打つ」と語った“全身監督”の実像が立ち現れる。

(週刊新潮 2024.03.07号)