碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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今期ドラマの隠れた佳作「アイのない恋人たち」

2024年03月27日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

 

今期ドラマの隠れた佳作

「アイのない恋人たち」

朝日放送・テレビ朝日系

 

先日、福士蒼汰主演「アイのない恋人たち」(朝日放送・テレビ朝日系)が幕を閉じた。

主な登場人物は30代の男女7人だ。売れない脚本家の真和(福士)。食品会社で企画開発をしている多門(本郷奏多)。交番勤務の警察官・雄馬(前田公輝)。3人は高校時代からの友人だ。

彼らは多門の同僚である栞(成海璃子)、ブックカフェを営む絵里加(岡崎紗絵)、区役所勤務の奈美(深川麻衣)たちと合コンで知り合う。

やがて多門と栞、雄馬と奈美、そして真和と絵里加という3組のカップルが出来る。しかし真和には、初恋の相手だった愛(佐々木希)という忘れられない女性がいた。

かつての「男女七人夏物語」のような、にぎやかな恋愛群像劇かと思いきや、全く違った。

それぞれが他者との距離感をうまくつかめないでいる。無理に本音を隠したり、逆に思わぬ形で本音をぶつけることで、相手も自分も傷つけてしまう。

恋愛も含め、自分がこれからどう進めばいいのか、戸惑うばかりの7人。そこには見る側と地続きの等身大の姿があり、時には自画像を突き付けられるような痛みがあった。

脚本の遊川和彦が描こうとしたのは、普通の人が日常を生きる中で抱える不安や迷い、同時にその先にある希望だったのではないか。

福士たちキャストの好演もあり、今期ドラマにおける“隠れた佳作”となった。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.03.26)