「週刊新潮」に寄稿した書評です。
水野仁輔『スパイスハンターの世界カレー紀行』
産業編集センター 1870円
誰もが好きなカレーの世界は果てしなく広い。著者の「作り手がカレーだと言えばカレー、食べ手がカレーだと思えばカレー」という定義は最適にして名言だ。本書ではインド料理、唐辛子、肉料理、カレー、そしてスパイスをめぐる5つの「旅」が語られる。バングラデシュ、ペルー、ジャマイカ、ベトナムなど、各地の「匂いと音と景色が混然一体となった空気」が行間に漂う、読むカレーだ。
ピエール・ボワスリー、フィリップ・ギヨーム:脚本
シリル・テルノン:作画 鵜田良江:訳
『第三帝国のバンカー ヤルマル・シャハト~ヒトラーに政権を握らせた金融の魔術師』
パンローリング 4400円
第1次大戦後、銀行家として巨額の賠償金に苦しむドイツを救い、ナチス時代は経済大臣を務めたのがシャハトだ。しかし、ヒトラーやナチ党の方針を批判して解任。ニュルンベルク裁判では無罪となった。本書は、彼がいなければヒトラーもナチスも政権はとれなかったといわれる男の半生を描く、バンド・デシネ(フランス語圏のマンガ)。シャープな画調と的確な台詞は、まるで新作映画のようだ。
伊井春樹
『紫式部の実像~稀代の文才を育てた王朝サロンを明かす』
朝日新聞出版 1980円
NHK大河ドラマ『光る君へ』。吉高由里子演じる、まひろ(紫式部)が言う。自分が「男だったら、勉学に励んで内裏に上がり、世を正します!」と。果たして、実際はどんな女性だったのか。国文学者の著者は、村上天皇の第七皇子、具平(ともひら)親王をキーマンだと指摘。文化サロンだった親王邸で多くの知識を吸収したと見る。さらに、本書では物語執筆の裏側や道長との関係なども明かされていく。
(週刊新潮 2024.03.21号)