執念の冤罪調査報道
昨年12月、ある冤罪事件をめぐる賠償請求訴訟の判決が言い渡された。結果は勝訴。東京地方裁判所が警視庁や検察の捜査を違法と認め、被害者への賠償を命じたのだ。
2月18日に放送されたNHKスペシャル「続・“冤(えん)罪”の深層〜警視庁公安部・深まる闇〜」は、この事件を追った執念のドキュメンタリーだ。昨年9月のNスぺに続く第二弾である。
大川原化工機は、横浜市にある化学機械製造会社だ。4年前、社長の大川原正明さんら3人が逮捕された。「軍事転用」が可能な精密機械を中国や韓国へ不正に輸出したとの容疑だった。
身に覚えのない経営者たちは無実を主張するが、警察側は聞く耳を持たない。長期勾留の中で1人は病気で命を落としてしまった。元顧問の相嶋静夫さんだ。末期のがんだったが、最後まで保釈は許されなかった。
ところが、相嶋さんの死から5ヶ月後、突然、「起訴取り消し」という異例の事態が発生する。「冤罪」だったのだ。
会社側は東京都に賠償を求めて裁判を起こす。昨年6月には、証人となった現役捜査員が、法廷で「まあ、捏造ですね」と告白している。
昨年のNスぺでは、捜査を担った警視庁公安部の問題を検証していた。曲解ともいえる資料の作成。結論ありき、逮捕起訴ありきの恣意的な捜査。その背景には、捜査幹部たちの「組織内評価」への焦りもあった。
そして今回、制作陣は国や都が裁判への提出を拒否した文書など、警察の内部資料を新たに入手。それらは、冤罪の歯止めになり得るはずだった警察上層部や経済産業省担当者、検察などの「判断」をうかがい知ることが出来る内容だ。
さらに事件の背後には、国が推進する「経済安全保障」への忖度も見えてくる。「韓国や中国でネタを挙げれば、喜ぶ政治家もいる」という警察関係者の証言に驚かされる。いくつもの独自取材によって冤罪の深層を探る過程は見応えがあった。
背筋が寒くなるのは、この捏造事件が決して他人事ではないからだ。公安部がいったん狙いを定めたら、証拠も含めて「何とでもなる」という実例と言っていい。公安部のリアルな「闇」に迫る、出色の調査報道だった。
(しんぶん赤旗「波動」2024.02.29)
追記:
この番組のディレクターであるNHKの石原大史さんが、昨年9月放送のNスぺ「“冤(えん)罪”の深層〜警視庁公安部で何が〜」で、芸術選奨新人賞を受賞しました。おめでとうございます!