碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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ハートネットTVが共有した「8月31日」の夜

2024年09月13日 | 「しんぶん赤旗」連載中のテレビ評

 

 

「8月31日」の夜に

 

10代の若者たちにとって8月下旬は鬼門だ。夏休みが終わるのが怖い。学校に行きたくない。誰を頼ればいいのか分からない。自分を追い込んだ結果、9月の新学期を待たずに自殺してしまう者も少なくない。

そんな8月の終わり、31日の夜に生放送されたのが「ハートネットTV #8月31日の夜に。」(NHK Eテレ)だ。10代が抱える憂うつや、生きるのが辛(つら)いという気持ちを語り合っていこうとする番組だった。

スタジオには司会を務めるミュージシャン・作家の尾崎世界観、モデル・タレントの井手上漠、精神科医の松本俊彦、そして絵本作家・イラストレーターのヨシタケシンスケがいる。

番組の軸となるのは10代の投稿だ。学校について、「周囲の普通と自分の普通の違いが分らない」「嫌われていて居場所がない。早くこの世から居なくなりたい」といった切実な声が並ぶ。

また将来について、「やりたいこともなく、未来に希望が持てない」「頑張れない自分のまま大人になるのが怖い」などの不安が寄せられた。

それに対して松本は、辛いことをノートに書くなど「言葉にしてみること」を勧める。ヨシタケは辛い時には自分の顔を描いたと言い、「自分を俯瞰(ふかん)で見るなど客観視すること」で少し楽になったと体験を語っていく。

そして、後半には印象深い投稿文が登場した。

「無理に全てを前向きに頑張ろうとしなくていいし、綺麗(きれい)なところを取り繕った私じゃなくて、過去の辛かったことも、失敗も、弱さも、嫌も、全部持って大人になりたい。今はこうやって後ろ向きに前を向けるおかげで、以前よりもずっと楽に生きられています」

この言葉は同世代の胸に響いたのではないか。ヨシタケも「後ろ向き=自分にとってのポジティブ」と考えて、「今日は絶対前向きにならないぞ」と自分で決める日があっていいと笑った。

この番組で際立っていたのは、スタジオの大人たちが全員、上からの目線ではなく、同じ悩みを持つ地続きの人間として10代と向き合っていたことだ。

たとえ偶然でも構わない。番組を見たおかげで「8月31日を乗り切れた」という10代が一人でもいてくれたらと思う。

(しんぶん赤旗「波動」2024.09.12)

 

 

 

 


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