碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

【新刊書評2025】『力道山─「プロレス神話」と戦後日本』

2025年02月07日 | 書評した本たち

 

 

黒幕はGHQと「プロレスの父」

斎藤文彦

『力道山──「プロレス神話」と戦後日本』

 

昭和のプロレスを語る際に外せないのが、力道山、ジャイアント馬場、アントニオ猪木という3人のスーパースターである。中でも馬場や猪木の師である力道山は別格の存在だ。

斎藤文彦『力道山 「プロレス神話」と戦後日本』は、新たな力道山像を創出しようとする試みといえる。力道山とは何者であり、そのプロレスとは何だったのかを探っていく。

1950年秋、関脇だった力道山は突然大相撲引退を表明する。その後プロレスの世界へと向かうが、きっかけは日系レスラーとの出会いだといわれてきた。

だが、著者は調査と取材によってそれを覆す。プロレス転向をすすめた人物はGHQの関係者だった。

定説が出来上がったのは、戦後ニッポンの新しいヒーロー物語から戦争の気配を消し去ろうとした結果であり、神格化の始まりだった。

本書で明らかになっていくのは、力道山は自身の力だけでヒーローになったわけではないという事実だ。「力道山をつくった人びと」がいたのである。

中でも53年に放送を開始したテレビの存在が大きい。日本テレビが草創期のキラーコンテンツとして扱ったからだ。

当時の社長、正力松太郎は「テレビの父」「プロ野球の父」であるだけでなく、テレビという新たなメディアを通じた「プロレスの父」でもあったのだ。

力道山とは、彼にまつわるあらゆるストーリーの総体だと著者は言う。それは個の物語を超えて、昭和の日本人の物語となった。

(週刊新潮 2025年2月6日号)


この記事についてブログを書く
« 【気まぐれ写真館】 2月6日の... | トップ | 【気まぐれ写真館】 「海老名... »
最新の画像もっと見る

書評した本たち」カテゴリの最新記事