「週刊新潮」に寄稿した書評です。
塩澤幸登『木滑(きなめり)さんの言葉~思想 歴史 発言 そして 記憶』
河出書房新社 2970円
木滑良久は「伝説の編集者」の一人だ。1960年代から80年代にかけて「平凡パンチ」「POPEYE」「BRUTUS」などの編集長を務めた。本書はその軌跡と編集思想を伝える一冊だ。考え方の特徴は感覚(感動、感激)と論理の対比だった。そして雑誌作りのポイントは「作る側の自分が本当に面白いと思うものをとりあげること」だ。新しさを追うのではなく、自分が新しくあろうとしていた。
太田 光『芸人人語~旧統一教会・ジャニーズ・「ピカソ芸」大ひんしゅく編』
朝日新聞出版 1760円
雑誌に連載中の時評エッセイ集、その最新刊だ。2022年秋から今年の春にかけての出来事が題材となっている。安倍元首相銃撃事件と旧統一教会に関する発言で炎上した背景と真意。ロシアのウクライナ侵攻をめぐる「正義」。またジャニーズ問題については2つの側面を挙げる。事件の「検証」とメディア・芸能界の「あり方」だ。猛批判も承知の上で、自身の思うところを語る覚悟がそこにある。
武田 徹『神と人と言葉と 評伝・立花隆』
中央公論新社 2750円
立花隆が80歳で逝去して3年。新たな視点を提示する、刺激的な「立花隆論」だ。たとえば、本邦初となる中学時代の作文や大学時代の詩作も引用しながら、情報と文学という「二つの文体」に注目する。また、事実と論理にこだわる立花にとって、「田中角栄研究」はウイトゲンシュタインの『論理哲学論考』の応用編だったと指摘。さらにキリスト教との複雑な関係についても興味深い考察が並ぶ。
(週刊新潮 2024.07.18号)