「週刊新潮」に寄稿した書評です。
谷川俊太郎、伊藤比呂美
『対談集 ららら星のかなた』
中央公論新社 1980円
詩人・伊藤比呂美にとって谷川俊太郎は「詩人の神様」だ。神様はいかにして現在に至り、何を思って生きているのか。旺盛なる好奇心で話を引き出していく。少年時代から親しんだ狂言。生身の志賀直哉や三島由紀夫。あらゆる原稿の注文を受けていた頃。三度の結婚と離婚。自分には物語の発想がなく、「いま、ここ(Here and Now)」の人だと明かす神様は、老いや死も率直に語っている。
有馬 学
『「戦後」を読み直す~同時代史の試み』
中公選書 2090円
歴史学者の著者が、リアルタイムで読んできた書籍を再読することで「戦後」を再考する試みだ。サラリーマンが社会の主役となる時代をとらえた、山口瞳『江分利満氏の優雅な生活』。テレビの新たな表現と方法意識が衝撃的だった、萩元晴彦ほか『お前はただの現在にすぎない』。戦後思想という「世界を写す鏡」の歪みを正す里程標となった、関川夏央『ソウルの練習問題』などが選ばれている。
芦原 伸『辺境、風の旅人』
産業編集センター 1650円
著者は雑誌『旅と鉄道』などの元編集長で旅行作家だ。太古から変わらない辺境の風景は「魂に治癒力を与えてくれる」という。極北のイヌイットの村で一晩中オーロラを眺める。中央アジアのトルファン郊外でウイグル家庭料理を味わう。オーストラリアのタスマニアでは湖での鱒釣りに挑む。約30年間の旅の記録だが、どこへ行っても変わらないのは、その地とそこに暮らす人たちに対する敬意だ。
(週刊新潮 2024.10.17号)