石ノ森が授けた秘伝テクニックとは?
すがや みつる『コミカライズ魂』
河出新書 1089円
特撮テレビ番組『仮面ライダー』の放映が始まったのは1971年。半世紀を過ぎた現在も新作が制作されている人気シリーズだ。
作品数は膨大なものであり、番組をマンガ化したコミカライズ作品も多い。ただし、マンガ版の大半は原作者である石ノ森章太郎ではなく、他のマンガ家が描いているのだ。
すがやみつるは、大ヒット作『ゲームセンターあらし』などで知られるマンガ家だ。
今回上梓した『コミカライズ魂 『仮面ライダー』に始まる児童マンガ史』は、長年マンガ版の仮面ライダー・シリーズを描いてきた体験と作品を軸に書き起こした一冊だ。
著者が『仮面ライダー』のコミカライズを引き受けたのは、マンガ家修業中だった青年時代。
しかし、テレビ版のシナリオをなぞっても、マンガは面白くならない。そこで石ノ森に画期的な提案をする。「怪人だけ使って、あとは自分でストーリーを作ってもいいでしょうか?」と。
石ノ森は快く若者の背中を押した。その上で、マンガのコマ割り、構図、セリフなどを大まかに描いた「ネーム」はもちろん、下絵、ペン入れといった各段階で、石ノ森の監修を受けた。
また、児童向けのマンガ版ではアクションが大事な要素だ。石ノ森は真摯にマンガと向き合う弟子に、キャラクターを激しく動かす秘蔵テクニックも伝授していく。
本書は、マンガ家としての個人史とコミカライズという文化の歴史が重なる、稀有なマンガ史だ。
(週刊新潮 2022.12.08号)