『海に眠るダイヤモンド』で光る
「池田エライザ」を開花させたもの
終盤へと向かっている、日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)。
主要キャストの一人として、見る側に強い印象を与えているのが、リナ役の池田エライザさんです。
背負ってきた重い過去。鉄平(神木隆之介)の兄・進平(斎藤工)との出会い。新たな暮らしと出産。そして、進平が巻き込まれた炭鉱事故……。
諦めていた人生を、愛する人と共に再生していこうとする女性を、池田さんは懸命に演じています。
そんな池田さんには、この役柄に結びついた重要な作品があります。
それが、今年2月から4月にかけて放送された連続ドラマ『舟を編む~私、辞書つくります~』(NHK・BS)です。
ドラマ『舟を編む』
2017年、ファッション雑誌の編集者だった岸辺みどり(池田)は、突然、辞書編集部への異動を命じられます。
そこでは作業開始から13年、刊行は3年後という中型辞書『大渡海』の編集が行われていました。
当初は戸惑ったみどりですが、変わり者の主任・馬締(まじめ/野田洋次郎)、日本語学者の松本(柴田恭兵)など言葉を愛する者たちに刺激され、いつの間にか「辞書作り」にハマっていきます。
原作は、12年に本屋大賞を受賞した、三浦しをんさんの『舟を編む』です。この小説では、営業部から引き抜かれてきた馬締の歩みが本線となっていました。
また、13年に松田龍平さん主演で映画化された際も、ほぼ原作通りでした。
一方、このドラマの主人公は、原作の後半から登場する、みどりです。
ヒロインを通じて・・・
しかし、彼女は馬締のような言葉の天才ではありません。ごく普通の女性です。
見る側は、みどりを通じて言葉の面白さや奥深さを知り、辞書を編むことの意味を身近に感じることができました。
例えば、「恋愛」の「語釈」(語句の意味の説明)を任されたみどりは、既存の辞書が恋愛を「男女」や「異性」に限定していることに気づきます。
実際に『広辞苑』で「恋愛」を引いてみると、「男女が互いに相手をこいしたうこと」とあります。
みどりは、時代感覚を反映し、異性を外しても成立する恋愛の説明を探っていきます。
彼女の提案を元に、「恋愛」について次のような秀逸な語釈が仕上がりました。
「特定の二人が互いに引かれ合い、恋や愛という心情の間で揺れ動き、時に不安に陥ったり、時に喜びに満ちあふれたりすること」
3年に及ぶ編集作業の中で、みどりはいくつものハードルを越えていきます。
すべての言葉には、生まれてきた理由があること。人が何かを伝えたい時、誰かとつながろうとする時、「言葉の持つ力」が助けとなること。さらに、「紙の本」ならではの価値や魅力も描かれてきました。
女優「池田エライザ」の深化
辞書とそれを編む人たちへの敬意にあふれる、静かな秀作だったこのドラマ。その軸となったのが、池田さんの好演です。
当初、部署異動への不満を抱えて頑(かたく)なだった、みどり。その内面が、少しずつ変化していく様子を、池田さんは繊細な演技で表現していったのです。
それは、現在の『海に・・・』でより深化したものとなっています。ある時代を体現する女性として、物語の中で存在感を示す、リナ。そんな池田さんの演技を、最後まで見届けたいと思います。