碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

【気まぐれ写真館】 九月の空

2020年09月11日 | 気まぐれ写真館

2020年9月11日


穴場的クライムドラマ「竜の道」

2020年09月10日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

フジ「竜の道」

穴場的クライムドラマに

玉木宏と高橋一生が挑む

 

親に捨てられた双子の兄弟が小さな運送会社を営む夫婦に育てられる。その養父母は大手のキリシマ急便に会社を乗っ取られて自殺。兄弟は社長の霧島源平(遠藤憲一)への復讐を誓う。これが「竜の道~二つの顔の復讐者」の大筋だ。

兄の竜一(玉木宏)は自らの死亡を偽装し、整形した上で裏社会とつながっていく。弟の竜二(高橋一生)は国土交通省の官僚だ。竜一が企業コンサルタントとして会社に出入りし、竜二は霧島の娘・まゆみ(松本まりか)の恋人となる。

見ていて、「なんか昭和だなあ」と思う。同時に「こういうドラマがあってもいいじゃないか」という気がする。復讐を遂げることが自分たちを滅ぼすことになるかもしれない。しかし理性的にはあり得ない行動に出るのもまた人間なのだ。

とはいえ事がそう簡単に運ぶはずもない。キリシマ急便からの社長追放は難航し、竜二が復讐目的でまゆみに近づいたことも知られてしまう。あせる竜一。兄を心配する竜二。さらに、かつて兄弟が養父母の家で一緒に暮らした妹、美佐(松本穂香)をめぐる2人の思いも微妙にすれ違っていく。

玉木と高橋の2人が、これまでにない役柄に挑んでいること。内なる葛藤を言葉で説明するのではなく、表情や行動で見せていること。そして女優陣「W松本」の健闘も見どころだ。今期の穴場的クライムドラマである。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは‼」2020.09.09)


週刊朝日で、「麒麟がくる」再開について解説

2020年09月09日 | メディアでのコメント・論評

 

 

麒麟がきた! 

3カ月のブランクも絶妙に活用、

期待高まる「本能寺の変」

 

“麒麟(きりん)がきた!”とでもいうところだろうか。

新型コロナウイルスの感染拡大による影響で4月1日に収録をやめ、放送も6月7日で休止していたNHK大河ドラマ「麒麟がくる」第22回「京よりの使者」の放送が8月30日に再開され、14.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)の視聴率を記録した。

「冒頭に、『桶狭間から4年』と持ってきたところ、うまい! と感じました」  

メディア文化評論家の碓井広義さんは語る。

「我々視聴者が待ち続けていた3カ月の間に、ドラマの中でも時間が、しかも4年もの時間が過ぎていたわけですね。もしかしたら当初の予定ではこの期間のエピソードをもう少し描くつもりだったかもしれませんが、この演出で、うまく3カ月の空白を埋め、視聴者は明智光秀と一緒に時間軸をジャンプした感覚がありました」  

再開されたドラマは桶狭間の戦いから4年後。今川義元が討たれ、実権を握った三好長慶。その傀儡(かいらい)となり、別人のようになってしまった将軍・足利義輝のもとに光秀が呼ばれ、義輝のために信長上洛の約束をした。  

ドラマ評論家の田幸和歌子さんは、初登場した本郷奏多演じる近衛前久を、「政治に積極的に関与する異端の関白、待ちに待った登場です」と、今後のドラマ展開のキーマンの1人として期待する。

「高貴な雰囲気を見せたかと思えば、尾野真千子さん演じる架空の人物・伊呂波太夫といる時には少年のような表情を見せるなど、相手によって全然違う立体的な人物像が今後、光秀や信長と、どう絡んでくるのか気になりますね」  

田幸さんは、義輝はじめ、足利家の将軍たちも注目ポイントだとする。

「あれだけ颯爽(さっそう)としていたのに、すっかり元気を失ってしまった向井理さん演じる義輝が、最終的にどんな散り際を見せてくれるか。病のため一度も上洛することなく病死した14代の義栄を演じる一ノ瀬颯さんは、春まで戦隊ヒーローのレッドをつとめていて、そのフレッシュさも気になります。滝藤賢一さん演じる室町幕府最後の将軍・足利義昭も、現在演じている僧の演技からどう変化していくか、その対比も見どころ。スポットが当たる機会が少なかった末期の足利将軍たちを、豪華な顔ぶれで見せてくれるのは、これまでにない部分を掘り下げたいというねらいもあるのではないでしょうか」

前出の碓井さんも滝藤さんの義昭に着目。

「あのお坊さんが、この先の光秀・信長の2人との関わり合いを、どう見せてくれるのか楽しみです」。

さらに今後の出演となる、大河初出演の坂東玉三郎演じる正親町天皇にも期待する。「正親町天皇という、あまり知られていない人物に玉三郎さんをキャスティングしたことで、これは重要な描き方をすると予想できますよね。どんな役になるのか楽しみです」  

放送再開により、最後の「本能寺の変」まで目が離せなそうだ。

「歴史の上では、ここからあと18年。いよいよ光秀は表舞台に顔を出し始めます。この先数カ月の間に展開される波乱の物語は、信長との関係を軸に、これまでよりもますます濃厚な密度になるのではないでしょうか」(碓井さん)  

長谷川博己と染谷将太が、どんな本能寺の変を見せてくれるだろうか。

【本誌・太田サトル】)

(週刊朝日オンライン 2020.09.07)

 


言葉の備忘録180 恐ろしいものと・・・

2020年09月08日 | 言葉の備忘録

 

 

 

恐ろしいものと

恐ろしくないものに関する

知恵こそが、

勇気なのだということに

なりますね。

 

 

プラトン『プロタゴラス』

 

 


想像力で継承する戦争体験「戦争童画集」

2020年09月07日 | 「北海道新聞」連載の放送時評

 

 

<碓井広義の放送時評>

「戦争童画集」

想像力で継承する戦争体験

終戦から75年を経た今年の夏も、NHKは戦争関連番組を何本も放送した。その中で強く印象に残ったのが、8月24日の「戦争童画集~75年目のショートストーリー」だ。戦争体験者の手記や聞き書きを基に作られた三つの物語で、案内役を吉永小百合が務めた。

第1話は、原爆投下直後の広島で肉親を捜す女性(長澤まさみ)が主人公の「あの日」(脚本・演出は山田洋次)。廃虚と化した町を象徴する美術セットで、長澤が体験を語っていく。

「もう人間ではない」と思わせるほど無残な人々。ようやく見つけた父親も、瓦礫(がれき)の下から母親を救いだせなかったことを嘆きながら翌月亡くなってしまう。それらを映像で描かず、朗読劇にしたことで、見る側は光景を思い浮かべようとする。受け身ではなく、自ら想像するからこそ伝わってくるものがあるのだ。長澤は「こんなにうまい女優だったのか」と見直したくなる迫真の演技だった。

第2話「こんばんは」も山田の脚本・演出。原爆で死にかけている孫娘のために「ミカンの缶詰」を探す老人(加藤健一)が登場した。女性(蒼井優)から缶詰をもらい、もはやミカンを食べる力のない孫に、その汁を一口飲ませる。空襲警報が鳴り、それが解除されて、あかりをつけたら孫は亡くなっていたと老人が語る場面が圧巻だ。「なんにも悪いことしとらん子供が、短い命をこうして終えてしもうてからのう」という言葉が忘れられない。

そして最後の第3話、沖縄戦を描いた「よっちゃん」は映画監督・松居大悟によるものだ。ひめゆり学徒を演じたのは黒島結菜。朗読劇とドラマを融合させ、絶望的な状況の中で兵士の看護にあたった女学生の体験を再現していた。麻酔もかけずに手足を切断される兵士。戦闘に巻き込まれて亡くなった級友。自決に失敗したことで生き延びた女性の「戦後」はどうだったのかと思いを巡らせた。

戦争体験を持つ人は年々減っていく。やがて「戦争を知らない子供たち」だけの国になることは確かだ。いや、だからこそ新聞は新聞なりの伝え方で、そしてテレビもテレビだからこその手法で、戦争と平和について考える機会を提供し続ける必要がある。この番組はそんな1本だった。

ただし、田中要次と橋本環奈がコロナ禍の父娘を演じたドラマ部分は不要だ。戦時と現代を繋(つな)ごうとしたのだろうが「想像」を邪魔する形となり残念。語りの力、言葉の力が生み出す「リアル」で十分だったのだ。

(北海道新聞「碓井広義の放送時評」2020.09.05)


『半沢直樹』の「休止」は、初めてじゃなかった!?

2020年09月06日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

『半沢直樹』の「休止」は、

初めてじゃなかった!?

 

快進撃を続けている、日曜劇場『半沢直樹』(TBS系)。ところが、6日(日)の放送は「お休み」なんですね。代わりの「生放送」なるものがあるとはいえ、すっかり視聴習慣化している人にとっては、やはり寂しいのではないでしょうか。

この「一回休止」のことを知って、思い出したのが7年前の『半沢直樹』第1シーズンです。

とても暑かった2013年の夏。『半沢直樹』の第1話が放送されたのは7月7日のことでした。いきなり19.4%という高い視聴率でスタートし、第2話21.8%、第3話22.9%、第4話27.6%と順調に数字を伸ばしていきました。

銀行、そして金融業界が舞台の話となれば、背景が複雑なものになりがちですが、『半沢直樹』は物語の中に解説的要素を組み込み、実にわかりやすくできていました。

銀行内部のドロドロとした権力闘争やパワハラなどの人間ドラマをリアルに描きつつ、自然な形で銀行の業務や金融業界全体が見えるようにしていた。「平易」でありながら、「奥行」があったのです。

また、銀行員の妻は夫の地位や身分で自らの序列が決まります。半沢直樹(堺雅人)の妻・花(上戸彩)を軸にして、社宅住まいの妻たちの苦労を見せることで女性視聴者も呼び込みました。

8月11日放送の第5話で、視聴率は29.0%に達します。この頃、すでに『半沢直樹』は堂々のブームとなっていました。

ところが、なんと次の日曜日、18日は『半沢直樹』を放送しないというじゃないですか。しかも、その理由が『世界陸上』です。

「独占生中継」という局としての編成上の事情とはいえ、このタイミングで『半沢直樹』を1回休むのはもったいないという声、当時多かったですね。

しかし、結果的には視聴者の飢餓感を刺激し、また話題のドラマを見てみようという、新たな層も呼び込むことになったのです。1週空けた形で8月25日に第6話が放送されたのですが、視聴率は休止前とまったく同じ、29.0%というハイスコアでした。

今回の「休止」の背景は、前回とは異なります。新型コロナウイルスの影響が撮影現場に及んでいるからです。

見る側も、そのあたりは重々承知しているので、『世界陸上』の時のような「なんで?」感はないはずです。むしろ、「がんばれ、半沢チーム!」という応援の気持ちで待ってくれるような気がします。

大河ドラマ『麒麟がくる』の長い「休止」の際にも思いましたが、かつて長尺の映画には、上映の途中で「Intermission(インターミッション 途中休憩)」の文字が入り、一旦館内が明るくなったものです。

それは観客にとって、前半を振り返り、まだ見ぬ後半を予測し、心の準備をする愉悦の時間でもありました。

『半沢直樹』の場合は、インターミッションというより、演劇などでいう「インターバル=幕間(まくあい)」に近いかもしれません。

先週、開発投資銀行の谷川幸代(西田尚美)の粘りによって、共闘するかたちで債権放棄を拒否した半沢。このまま黙っているはずがない、政権党の箕部幹事長(柄本明)一派。ここからラストに向って、「帝国航空」をめぐる暗闘は、ますますヒートアップしていくはずです。

来週には再び幕が上がります。舞台の上には市川中車(香川照之)も、市川猿之助も、片岡愛之助もいるのですから、歌舞伎座の「大向こう(おおむこう)」から声を掛けるような心づもりをして、しばし待ちましょう。


「古典」が気になる人に最良の”道案内”

2020年09月05日 | 書評した本たち

 

 

古典が気になる人に最良の”道案内”

『文学こそ最高の教養である』

駒井稔+「光文社古典新訳文庫」編集部

(光文社新書)

 

イタリアの作家であるイタロ・カルヴィーノは、須賀敦子が訳した『なぜ古典を読むのか』の中で、「おとなになってから読むと、若いときにくらべて、より多くの細部や話の段階を味わうことができる(はずだ)」と言っている。

かつて読んだ古典を再読したいと思う人、未読の古典がずっと気になっている人にとって、駒井稔+「光文社古典新訳文庫」編集部『文学こそ最高の教養である』は最良の道案内だ。

登場するのは、2006年に誕生し、すでに300冊を超える「新訳」シリーズの翻訳者14人。それぞれの訳書をベースに、作家と作品の評価から時代背景、さらに現在の私たちとのつながりまでを語っている。聞き手は創刊時の編集長だ。

たとえば、プレヴォ『マノン・レスコー』の野崎歓は、この作品を「瞬間に賭けるというフランス恋愛文学の伝統のオリジン」だとして、「文学は経験の一種です。(中略)本を読むだけでも未知の自由を体験させてくれる」と官能と情熱の世界へといざなう。

またドストエフスキー『賭博者』の亀山郁夫は、ギャンブル狂だった作者にとって「創作するときに感じる高揚感と、賭博にのめりこむときのある種の官能的な喜びみたいなもの」が表裏一体だったと指摘する。

他にも債務者監獄に入っていたデフォーの『ロビンソン・クルーソー』、訳者が「エロス三部作」の一つに挙げるトーマス・マン『ヴェネツィアに死す』など危険な教養が勢揃いだ。

(2020.09.03 週刊新潮)


9月4日の合掌

2020年09月04日 | 日々雑感

多摩川 2020夏

 

 

2020年9月4日。

 

今日は、

松本深志高校と

テレビマンユニオン、

両方における大先輩、

萩元晴彦さんの命日です。

 

亡くなったのは

2001年。

71歳でした。

 

萩元さん、

テレビマンユニオンは

今年の2月に

見事

創立50周年を

迎えました。

 

残念ながら、

お祝いの催しは

新型コロナの影響で

延期のままです。

 

久しぶりで

先輩や同期や後輩に

会えるのを

楽しみにしていたのですが。

 

6月には

創立メンバーの一人である

大原れいこさんが、

萩元さんのいる世界へと

旅立ってしまいました。

 

村木さんも

吉川さんも

森さんも

鶴野さんも

すでに

そちら側にいて・・・

 

いえ、

今野勉さんは

相変らず

すごく元気です(笑)。

 

萩元さん、

気がつけば

自分自身が

萩元さんの享年に

近づいていることに

びっくりです。

 

萩元さん、

下界の話ですが

今年の9月4日は

まだまだ暑いですよ。

 

合掌。

 

 


中日新聞・東京新聞で語った「テレビドラマの現在地」

2020年09月04日 | メディアでのコメント・論評

 

 

テレビドラマの現在地

家族そろって茶の間のテレビでドラマを楽しむ。そんな時代があった。高い視聴率を記録した人気ドラマもあった。しかし、最近のドラマはつまらないという声もある。面白いドラマとは?

 

自由な発想で実験を 

メディア文化評論家・碓井広義さん

面白いドラマは、見ている人の気持ちを動かします。一つのせりふ、一つの動きにでも人間の真実があれば、人の気持ちは揺さぶられます。

人間のいいところも悪いところも丸ごと描く。それがドラマです。だから、作り手には自分たちが作り出す人物や物語に対する「熱狂」が必要になります。誰か一人だけでもいい。作り手の熱狂は、画面を通して必ず伝わります。

話題のドラマ「半沢直樹」の場合、まず池井戸潤さんの原作がそうです。若い頃に勤めた銀行に対する愛着、その裏返しとしての、ある種の怒り。それが底流にあるような気がします。めりはりの利いた演出には、ディレクターの福沢克雄さんの強い思い入れが表れています。顔のアップで攻め、引いた画面で緩める。緩急自在です。

そして、堺雅人さんをはじめとする出演者。普通、役者は役に入り込みます。ところが、このドラマでは、役が役者に憑依(ひょうい)し、入り込んでいるように見えます。熱狂が重なり、響き合ってエネルギーが生まれます。

映画が「非日常」の体験であるのに対し、テレビは「日常」のメディアです。テレビドラマは、われわれと地続きの世界です。人は自分の人生しか生きられません。しかし、ドラマを見ることで、こんな生き方もあるのかと発見する、もしくは忘れていたものを再発見することもあります。

若者のテレビ離れが指摘されますが、彼らが会員制交流サイト(SNS)で話題にしていることの多くはテレビだったり、中でもドラマだったりします。彼らの意識にネットとテレビの区別はありません。いいドラマを作れば受け止めてくれます。

コロナ禍でドラマの制作現場は苦労しています。普段と同じことができない。ならば、それをポジティブに捉えたらどうでしょうか。定型やスタイルを崩し、普段ならできないことを試してみる。リモート制作ドラマで、離婚した元夫婦が電話で話すだけの作品がありました。二人芝居の舞台を見ているようで面白い作品でした。

ドラマは箱ではなく、風呂敷です。何でも包み込める。少しでこぼこして見てくれが悪かろうと、それもドラマです。コロナをてこにして、自由な発想でドラマの可能性を広げてほしい。そう思っています。【聞き手・越智俊至】

(中日新聞・東京新聞 2020.08.31)

 


Eテレ「植物に学ぶ生存戦略」は痛快な社会批評

2020年09月03日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

Eテレ

「植物に学ぶ生存戦略4 話す人・山田孝之

なんとも痛快な社会批評



植物の生態には人間が生き延びるためのヒントがある。俳優の山田孝之が解説する「植物に学ぶ生存戦略」。その第4弾が先月26日に放送された。

今回はシロツメクサの話が秀逸だ。山田は「ジャンベさん」という架空の政治家と対比させながら、3つの生存戦略を指摘する。まず仲間をつくること。シロツメクサは小さな花の集合体だ。ジャンベさんも失敗の責任を仲間にとらせてきた。

次がウィンウィンのパートナー。シロツメクサは無数の根粒菌に支えられながら、彼らに配分する糖分を統制している。一方、ジャンベさんのパートナーは庶民だ。真面目に働く彼らに「相利共生」と思わせて、格差をつくることで支配する。

3つ目は外部の優秀な人材。シロツメクサの場合は蜜を与えれば花粉を運んでくれるミツバチだ。ジャンベさんもまた「自分にとって有益」な人材に「甘い蜜」を吸わせて帝国を築いてきた。

まとめとして山田が語る。

「一部の人間だけが得をする、まやかしの平和に気づき、NOを突きつけるのか。無知で無関心のまま飼い殺されるのか。どう生きるのかは自分で決めるのです」

なんとも痛快な社会批評だ。ジャンベさんならぬアベさんにも届くといいなと思っていたら、2日後の28日に辞任会見。もしかしたら、この番組に「生存戦略」を見抜かれたことで覚悟を決めたのかもしれない。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2020.09.02)


言葉の備忘録179 美的感覚とは・・・

2020年09月02日 | 言葉の備忘録

 

 

 

美的感覚とは嫌悪の集積である、

と誰かがいったっけ。

 

 

伊丹十三『ヨーロッパ退屈日記』

 

 


『私の家政夫ナギサさん』怒涛の最終回はどうなる!?

2020年09月01日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

終るのが惜しい!

『私の家政夫ナギサさん』

怒涛の最終回はどうなる!?

 

気がつけば、今年の夏ドラマの「目玉」の一つになっていた、多部未華子主演『私の家政夫ナギサさん』(TBS系、火曜夜10時)。早くも今夜が最終回です。これまでを踏まえての「大胆予測」とは!?


アラサー女子の本音とリアル

相原メイ(多部)が幼稚園児の頃、将来の夢は「お母さんになること」でした。しかし、それを母親(草刈民代)にひどく叱られます。

「そんな夢、おやめなさい。お母さんはね、お父さんだけじゃなく、その辺の男たちよりずっとできた。でも女の子だから、お母さんにしかなっちゃダメって言われたの。メイはばかな男より、もっと上を目指しなさい。お母さんになりたいなんて、くだらないこと二度と言わないで」

大人になったメイは、製薬会社のMR(医薬情報担当者)になっています。母親の期待に応えようと、「仕事がデキる女性」を目指して頑張ってきた成果でしょう。プロジェクトのリーダーとして部下を率い、責任ある仕事をしています。

ただし、いつも疲れ切って帰宅しているので、一人暮らしのマンションは散らかり放題だし、食生活もいいかげんでした。そんなメイを心配した妹の唯(趣里)が、優秀な「家政夫」である、鴫野(しぎの)ナギサ(大森南朋)を送り込んできたのです。

当初は、自分の部屋に「おじさん」が出入りすることに対して抵抗感があったメイですが、整った室内とおいしい食事はありがたい。さらに、ナギサさんの誠実な人柄にも癒やされていきます。そう、まるで家に「お母さんがいるみたい」と思うのでした。

このメイですが、別に恋愛したくないわけでも、結婚したくないわけでも、子供を持ちたくないわけでもありません。ただ、今の生活は充実しているし、無理もしたくない。

いや、できれば仕事を含む「現在の自分」をキープしたいと思っています。その意味で、スーパー家政夫のナギサさんのサポートはベストでした。

この辺り、アラサー女子の本音とリアルを等身大で演じる多部さんが見事です。しっかり者のようでいて、少し抜けたところもある、愛すべき「普通の女性」がそこにいます。


「私たち、結婚しませんか?」

とはいえ、現在のメイは、彼女なりの窮地に立たされています。ライバル会社の田所優太(瀬戸康史)から告白され、気持ちが揺れています。

いや、それ以上の問題は、ナギサさんが社内の人事異動で現場を離れること。これまでのように、メイの部屋に来て、片付けや料理をすることが出来なくなってしまう。

前回のラストでは、思い余ったメイが、なんと「私たち、結婚しませんか?」とナギサさんに迫ってしまいました。気持ちはわかるけど(笑)、それって可能なのか。

確かに、メイは知りませんが、見る側は知っています。ナギサさんの中にも、メイに対する特別な思いがあることを。

ナギサさんがずっと抱えていた悩みというか、葛藤というか、過去を悔いたままの状態から救ってくれたのは、メイでした。ナギサさんはメイを救いながら、メイに救われてもいたのです。

「さあ、どうする、メイ!」と考えていて、ふと思い出したのが、黒木華主演の『凪のお暇(なぎのおいとま)』(TBS系)でした。


『凪のお暇』との「つながり感」

『凪のお暇』が、昨年の夏に同じ枠で放送されていたこともあるのですが、『私の家政夫ナギサさん』では毎回、番組のタイトルが同じ映像で流れるのではなく、思わぬ場所に表示されます。

たとえば、先週はナギサさんのエプロンにプリントされていました。一瞬後には、エプロンの文字は「LIFE×WORK」に戻っていましたが。このスタイルは、『凪のお暇』で使われていた表現。そんなこともあって、「つながり」を感じた次第です。

「人生のリセット」がテーマだった、あの『凪のお暇』。ラストで凪(黒木)が選んだのは、ゴン(中村倫也)と暮らすことでも、我聞(高橋一生)とヨリを戻すことでもなく、まずは「一人で生きてみよう」という第3の道でした。

いえいえ、だからメイが、ナギサさんとも、田所とも離れるだろうと言いたいわけではありません。メイは凪とは逆で、ずっと一人で「負けないぞ!」と頑張ってきたからです。誰かと「向き合う」ことを無意識に避けてきたようなところもあります。

しかし、今やメイは、人と「向き合う」ことに目覚めました。単純に、ナギサさんと田所の両方に別れを告げることはしないと思うのです。ナギサさんも、田所も、メイには「手離してはいけない人」だから。


ドラマの愉しみ「大胆予測」

ここで勝手な想像、予測をするならば(これもドラマの愉しみの一つ)、メイは田所と結婚、もしくは正式な交際を開始するけど、2人ともマンションの部屋はそのまま、隣同士のままにする。互いに「個人」としてのスペースも時間も大事に確保。

さらに、ナギサさんは管理職になることをやめて、フリーランスの家政夫になる。そして、メイの部屋も田所の部屋もしっかり片付け、食事の面倒もみてあげる。もちろん、いろんな相談にものる。つまり、ナギサさんは2人にとっての「お母さん」になる、というのはどうでしょう。

かつて、メイがナギサさんに「なぜ家政夫などしているの?」と失礼な質問をすると、「小さい頃、お母さんになりたかったのです」と驚きの答えが返ってきました。でも、それは例えではなく、本当の話でした。女性だけでなく、男性の中にもある「母性」は、このドラマの大事なテーマだったと思います。

まあ、普通に考えれば、メイと田所が一緒になるってことは、ないかも。「いい人」なんですけどね、田所さん。ていうか、このドラマに「悪い人」は一人も出てこなかったんだ(笑)。

実際のメイは、誰と、どう「向き合う」ことを選択していくのか。注目の、そして怒涛の最終回です。