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<週刊テレビ評>
「鎌倉殿の13人」
「超訳」のセリフが笑いと親近感
笑った、笑った。NHKの大河ドラマで、こんなに笑ったのは初めてかもしれない。9日から始まった「鎌倉殿の13人」だ。
このドラマ、乱暴に言えば「よく知らない時代の、あまり知らない人たちの物語」である。大河でおなじみの戦国でも幕末でもない中世の鎌倉時代。主人公は鎌倉幕府を創設した源頼朝でも、その有名な弟である義経でもない北条義時。つい「それって誰?」と聞き返したくなる。
しかし、この「義時、Who?」こそ、脚本家・三谷幸喜の狙いだろう。三谷が過去に手掛けた「新選組!」や「真田丸」に登場したのは歴史上の有名人ばかり。「近藤勇はこんな男じゃない」「真田幸村を誤解している」などと外野がうるさかったはずだ。
その点、皆が知らない時代、知らない人物はいい。書き手としての自由度が違う。史実の引力に負けない「予測不能」の物語が可能になる。
それにしても、初回の三谷は見事だった。どんな人たちによる、どんな物語なのかを、しっかり宣言していたのだ。出だしの基調は北条家のホームドラマである。主人公の義時(小栗旬)は、わがまま勝手な家族に振り回される、心優しき次男坊といった役柄だ。
父の時政(坂東弥十郎)は突然の再婚宣言。兄の宗時(片岡愛之助)は平家憎さで暴走。姉の政子(小池栄子)は流罪人である頼朝(大泉洋)に猛アタック。義時は彼らをなだめたりすかしたりしながら、北条家が危機に陥らないようにと奔走する。その高度な「調整能力」の導く先が、鎌倉幕府の二代目執権ではなかったか。
しかも北条家の面々が、それぞれに笑えるキャラクターなのだ。早すぎる再婚を家族から問われた父は「さみしかったんだよ~」と甘える。頼朝を助けるという犯罪的行為を父に告げられない兄は、「お前、言っといてくれ」と弟に押しつけようとする。それを聞いて、「これだよ!」とあきれる弟。まるで現代のホームドラマの雰囲気だが、親近感を増幅させている一因は彼らが話す言葉だ。
今回の大河のセリフ、現代語訳というより三谷流「超訳」と呼びたい。言語学的正確さではなく、生き生きとした会話を大事にした英断だ。おかげで俳優たちは、演じる人物が持つ「おかしみ」を含め、微妙なニュアンスも表現することができる。
さて見る側の心構えだが、歴史の知識や番組情報をあまり仕入れないことが望ましい。真っさらな状態で予測不能の展開を楽しむのが一番だ。先が読めないという意味で、義時たちが生きた時代は現代にもしっかり通じている。
(毎日新聞 2022.01.15夕刊)
映画館で
日本語版「サンダーバード55/GOGO」を観た。
なんと、
あの「サンダーバード」の新作だ。
55年前の放送から
リアルタイムで見てきた、
大好きな「サンダーバード」と
再会できるとは!
「再現性」の高さは申し分なし。
「アナログ」の魅力も実感。
あとは、
ストーリーが
もっともっと面白かったら、
言うことないんだけど(笑)。
今回は
「甦ったこと」に拍手です。
長澤まさみさん
「鎌倉殿の13人」の初回を
専門家はどう見たか
ナレーション「長澤まさみ」の配役予想
1月9日、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」がスタートした。鎌倉幕府の第2代執権・北条義時を演じる小栗旬が主演で、源頼朝は大泉洋、義経に菅田将暉、平清盛に松平健、他に坂東彌十郎、片岡愛之助、小池栄子、宮澤エマ、新垣結衣、山本耕史、宮沢りえ、田中泯、西田敏行、ナレーションは長澤まさみ……と三谷幸喜の作品らしい豪勢なキャスティングだ。視聴率は昨年の「青天を衝け」の20・0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区:以下同)を下回る17・3%だった。
その初回を専門家はどう見たか。メディア文化評論家の碓井広義氏に聞いた。
三谷脚本の大河は、幕末を描いた04年の「新選組!」(主演・香取慎吾)、戦国時代末期を描いた16年の「真田丸」(主演・堺雅人)以来、6年ぶり3作目である。作品を重ねるごとに時代を遡っていることになる。ちなみに初回視聴率も、「新選組!」26・3%、「真田丸」19・9%と、時代を遡るごとに下っている。
碓井:「青天を衝け」はコロナ禍の影響で、スタートが2月でしたからね。焦らされた視聴者が多く見たということもあるでしょう。今回、描かれるのは平安末期から鎌倉前期ですが、この時代、源頼朝と義経くらいは知っていても、北条義時って何者だっけというのが、多くの人が感じることだと思います。そこが、これまでの三谷作品とは異なるところでしょう。私も敢えて予備知識なしで初回を見ました。
――その結果として、視聴率もこれまでの作品よりも落ちたということか。で、感想は?
碓井:すごく面白く見ました。三谷さんらしいユーモアが、時折ではなく全編に溢れていました。一方で、初回は主人公がどんな人物なのかを伝えることが重要です。その点、義時はまだ頼りなさを見せつつも、頼朝はじめ父・時政(坂東彌十郎)、兄・宗時(片岡愛之助)、姉・政子(小池栄子)、妹・実衣(宮澤エマ)らが、無理難題に振り回されながらも調整能力に優れている人々であることをしっかり描いていました。今後、彼らが様々なトラブルに直面しながらも、その調整ぶりを展開していくのだろうと印象づけました。
――知らない時代、知らない人物を描いた大河は、これまで失敗の連続だった。
ゾッコンよ
碓井:本来ドラマとは、知らない結末に向かって見せていくものなんですけどね。失敗した大河には“おかしみ”がありませんでした。「鎌倉殿」の場合、登場人物も多いのですが、一人ひとりそれぞれが明るく、おかしみがありますし、次回作が楽しみになるんです。ほぼ同時代を描いた「平清盛」(12年、主演・松山ケンイチ)は暗く重く作られた大河でしたから、視聴者も次週も見ようとは思えなかった。
――「鎌倉殿」は確かに明るいが、現代風な言葉遣いが賛否両論を呼んでいる。
碓井:これまでの三谷大河を見ていない人は、そう感じるかもしれません。時政が再婚の理由を問いただされ「寂しかったんだもん」と答えたり、実衣が「姉は(頼朝に)ゾッコンよ」と言うセリフもありました。中世の話し言葉はわからなくても、いくら何でもそれはないと思わせるものです。ですが三谷大河では、すでにお馴染みですからね。
――そもそも「13人」とタイトルに算用数字が用いられたのは大河史上初。「これまでの大河とは違う」と宣言しているようなものだ。
サプライズ出演はあるのか
碓井:言葉遣いは、当時の人にも現代人に近い感覚があることを表現する手段と考えていいのではないでしょうか。現代語訳と言うよりも、三谷流の超訳です。それよりも、現代の感覚では残酷と思われる子殺しも、しっかりと入れ込んでいました。こうした使い分けの巧さが三谷脚本の特徴です。
――「新選組!」では元祖・土方歳三役者である栗塚旭を出演させたり、「真田丸」ではかつてNHK新大型時代劇「真田太平記」で真田幸村を演じた草刈正雄を幸村の父・昌幸に起用するなど、サプライズがあった。今回はどうだろう。
碓井:三谷作品のサプライズ出演は、三谷さんが子供の頃に夢中になった作品からの起用が多いように思います。そうなると、大河「草燃える」(79年、主演・石坂浩二)で北条政子を演じた岩下志麻さんが、何らかの役で出演するかもしれません。
――ナレーションを担当している長澤まさみの出演はないのだろうか。
碓井:囁き型のナレーションもこれまでになく斬新ですが、彼女が何者であるのかはまだ明かされていません。彼女は「真田丸」ではヒロインを演じていましたし、何らかの形で出演すると思います。
静御前は誰が?
――義経の母・常盤御前や側室・静御前、義時の正室・姫の前など、キャストが発表されていない役はまだある。美女が演じることの多い静御前は誰が演じるのか、ネット上では話題になっている。
碓井:義経役の菅田将暉が現在28歳であることを考えると、34歳の長澤が静御前というのはちょっと……。それよりも、主役の義時の娘役ではどうでしょうか。ナレーションでは、この時代を客観的に見つめられる存在のようですから。
――特に番組最後、ドヴォルザークの「新世界より」をBGMに長澤が語った人物紹介は、次週以降を楽しみにさせるものだった。それは以下の通りだ。
●平清盛:時代の変わり目が近づこうとしている。平家の総帥・平清盛。大輪田泊、後の神戸に港を開き、宋との貿易で莫大な富を得ている。今が絶頂の時。
●木曽義仲:やがて平家討伐の先陣を切って京へ乗り込む朝日将軍・木曽義仲。この時はまだ信州の山奥に隠れ住んでいる。
●藤原秀衡:東北の地に大都市・平泉を築いた奥州藤原氏は3代目・秀衡の時代。平家も一目置く勢力を誇っている。
●源義経:この時期、秀衡の庇護を受けていたのが、後の天才軍略家・源義経。やがてこの若者が、平家を滅亡に追いやることになる。
●後白河法王:そして謀略をこよなく愛し、日本一の大天狗と言われた後白河法皇。長年、朝廷に君臨してきた後白河と清盛との蜜月は、間もなく終わろうとしている。
そして最後にこう語った。「この国の成り立ちを根こそぎ変えてしまった、未曾有の戦乱が、目の前に迫っている」……。
戸次重幸も出演?
碓井:彼女のナレーションは、どちらかと言うと源氏寄りの立ち位置に感じられます。義時には4人の妻がいることがわかっていますが、名前の判明していない女性もいました。その女性の娘の一人が、大分の戸次(べっき)重秀に嫁いでいます。この戸次氏の末裔といわれているのが、大泉洋と劇団TEAM NACSを組んでいるシゲこと戸次(とつぎ)重幸です。大河「龍馬伝」(10年、主演・福山雅治)に大泉が出演した時には、TEAM NACSの音尾琢真も出演していましたから、今回も他のメンバーが出演することは十分に考えられます。
――戸次は母方の旧姓を芸名にしているのだが、本来の読みは「べっき」だという。TEAM NACSのメンバーで大河に出演していないのは、北海道に残ったリーダーの森崎博之を除けば戸次のみだ。
碓井:その戸次が先祖を演じることになれば話題になりますし、そこに義時の娘が嫁いでいるわけです。長澤が義時の娘であれば、父への思いも語ることのできる人物としてうってつけです。
果たして?
戸次重幸さん
(デイリー新潮 2022.01.13)
2022.01.12
歴史とは
史実の集合体ではない。
――歴史の正体は「物のミカタ」である。
井上章一、磯田道史『歴史のミカタ』
黒木華「ゴシップ」は
予想以上の社会派エンタメに
化ける可能性アリ
黒木華「ゴシップ#彼女が知りたい本当の○○」(フジテレビ系)が始まった。2019年の「凪のお暇」(TBS系)以来、久々の主演作だ。
ヒロインは瀬古凛々子(黒木)。出版社の経理部員だったが、ネットニュースサイト「カンフルNEWS」の編集部に異動してきた。社内のお荷物的部署で、PVが伸びなければ廃部は必至だ。
ネタ出し会議での凛々子が凄まじい。部員たちの提案をことごとく撃破していくのだ。「新鮮味なし」「プレスリリースからのコピペ」、さらには「取材・検証・実体験のない情報を収集して書いた、凡庸かつ内容の薄い記事」と容赦ない。
初回では女性部員(石井杏奈)が書いた、ゲームアプリ会社を「パワハラ企業」だとする記事が訴訟がらみの騒動に。凛々子はネタ元となった投稿をした人物を探し出し、この会社の人気ゲームのキャラクターが盗作であることを突きとめ、そのプロセスも含めて記事にしていった。
凛々子は、一般的にはかなりの“変人”かもしれない。だが、愛すべき変人だ。社会常識に欠けたり、場の空気は読めないが、物事の本質を見抜く目に曇りがない。ネットニュース編集長という立場で、それがどこまで発揮されるかが見どころだ。
また、この“笑わぬヒロイン”を演じる黒木が、やはりうまい。予想以上の社会派エンタメに化ける可能性がある。
(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.01.12)
【書評】
「『北の国から』黒板五郎の言葉」
倉本聰著、碓井広義編
■生きる力伝える名場面集
北海道富良野市を舞台に一家族の歳月を描いたテレビドラマ「北の国から」は、昭和56年から21年間にわたって放送された。原作・脚本は倉本聰氏、主人公の黒板五郎を演じたのは昨年亡くなった田中邦衛。
その放送40周年を記念して出版されたのが本書。倉本氏がどこから発想を得たかを当時記した文章が巻頭に掲げられ、ハッとさせられた。「都会は(中略)己のなすべき事まで他人に金を払いそして依頼する。(中略)生きるための知恵、創る能力は知らず知らずに退化している。それが果たして文明なのだろうか」。お金さえあれば-。そんな生き方でいいのかと問う。
本書では、ドラマの名場面をシナリオ形式で再現し最小限の説明を添えた。大自然の厳しさと美しさ、人々の交流、葛藤、友情、恋愛まで濃密に描かれ、ドラマの魅力を追体験できるはずだ。
五郎は妻の不貞がもとで、小学生の純と蛍の子供2人を連れて故郷の富良野へ戻る。放置された実家は廃屋同然、明かりはランプ、ご飯は薪で炊く、テレビなし。不便な生活に純は反発する。「電気がないッ!?夜になったらどうするの!」、五郎の答えは「夜になったら眠るンです」。ある日、五郎は2人の小遣いを自分に預けさせる。「欲しいもんがあったら自分で工夫してつくっていくンです。つくるのが面倒くさかったら、それはたいして欲しくないってことです」
五郎は決して立派な父親ではない。別れた妻への思いや、積んでは崩れる積み木のように続く苦労に弱音を吐き、自己嫌悪にも陥る。それでも倉本氏は、時に交わり、時にすれ違いながら子供たちに生き方を教える五郎の人間臭さまで表現し、読む者の心を揺さぶる。
後年、住まいを焼失し、建て直す金も失った五郎は「金がなかったら-知恵だけが頼りだ」と石で家を作り始める。令和になった今なら、一家の開拓生活はどんなだろう。
この数年は終わりが見えそうで見えない災厄に、疲れを感じる人も多い。五郎の言葉は時を超えて現代に「生きる力」を熱く伝える。何をやってもうまくいかず、気持ちが負けそうになるとき、どこからでもいいから開いて読みたい一冊だ。(幻冬舎・1430円)
評・河原潤子(ライター)
(産経新聞 2022.01.09)