【経営コンサルタントのお勧め図書】 数理でFactを追求 日本はどこに向かおうとしているか
『「日本はどこに向かおうとしているか
~ 数字を正しく見ないと騙される!
政府も財務省もマスコミもウソを言う! ~」
(高橋洋一著 徳間書店)
ISBN-13978-4198658489
■ 「失われた30年」から脱却し、力強い明日を目指すには
【この30年、間違い続ける財務省と日銀】
筆者の私は、「失われた30年」から脱却し、力強い明日の日本を築くため知見は何かを模索してきました。そこで出会ったのが紹介本です。紹介本の著者が「この30年、間違い続ける財務省と日銀」で指摘する間違いのアンチテーゼが、「失われた30年」から脱却する知見になると思い、著者の指摘する「財務省と日銀の間違い」に焦点を当ててみました。
その前に「失われた30年」の定義をしておきましょう。「失われた30年」はバブル崩壊後の経済の長期停滞を指します。1989年12月29日(大納会)に、日経平均株価は38,915円87銭を付け、1990年1月から下がり続けます。この時がバブル崩壊と言われています。(2024年2月22日に1989年の大納会の史上最高値を更新(3万9098円68銭)。7月11日には4万2224円02銭をつけました。)
著者は、バブル期(1987~1990年)の経済環境について次のように述べています。「実は、マクロ経済状況はよかった。インフレ率(コアcpi)は▼0.3~3.3、失業率は2~3%と申し分のないパーフォーマンスだ。株価と土地だけが異常な値上がりだったのである」と。著者はこの後に(1998年ごろ)ブリンストン大学に研究員として派遣されていた時、師であるペン・バーナンキ(ノーベル経済学者)に、係るケースへの対応策を聞いたところ、その答えは、「株などの資産価格だけ上昇しているとき必要なのは、資産価格上昇の原因の除去であり、一般物価や失業率に影響のある金融政策の出番ではない」でした。
著者は、このバーナンキの答えを頭に置きながら「失われた30年」の原因を次のように指摘しています。『バブルは、証券会社の「財テク商品(営業特金)」と「金融機関の不動産融資」を規制すれば終わりだったにも拘らず、その後の緊縮財政と金融引き締めを行ったのがまずかった。さらにまずいのは、アベノミクスで、その呪縛が一部解かれたが、いまだに緊縮財政が顕在している』と。
「失われた30年」の原因である「まずさ・間違い」について、〈1〉「金融引き締めの問題点」、〈2〉「緊縮財政の問題点」について、その①「不適切なPB」、その②「過大な社会的割引率4%」の順に、詳しく見てみましょう。
〈1〉まず、金融引き締めの問題点について触れてみましょう。
著者の考えは、「マクロ経済のパーフォーマンスの良いときは引き締めをしてはならず、パーフォーマンスの悪いときは金融緩和をすべきことに加え、ビハインド・ザ・カーブ(政策を確実に行うためには、各種のデータが出そろうまで見極めて正しい選択を行う)で実施すべきで、アヘッド・オブ・ザ・カーブ(先手を打つ)による見切り発車は、間違った選択になる」です。
バブル直後のパーフォーマンスの良い時にも拘わらず、バブル潰しのために、当時の三重野総裁は引き締めを行った。また、2008年のリーマンショックの時、先進国の中で唯一金融緩和をしなかった日銀(白川総裁時代)の罪は重い。デフレのA級戦犯は日銀、と著者は言います。
一方、2013年、第二次安倍内閣下で着任した黒田総裁は、マネタリーベースを2年で2倍にする量的金融緩和政策を実施し(黒田政策について、当時のFRB議長のバーナンキは「不十分で中途半端である」と評した。バーナンキはデフレ脱却のため、米のマネタリーベースを約5倍にする大規模な緩和を実施した)、失業率の改善や実質賃金のプラス化などを図れたものの、デフレからの脱却はできないまま2023年4月植田総裁に引継ぎました。植田総裁は2024年3月「金利のある世界」を目指し、+0.1%(▼0.1~0⇒0~0.1)の利上げに踏み切りました。しかし、この時期、名目賃金が+1.9%に対し実質賃金は▼1.4%、GDPギャップが15兆円程度ある等を考えると、植田施策はアヘッド・オブ・ザ・カーブであり、著者は、見切り発車の落第と評価します。
日本銀行は、「無謬性」(自分は正しい)の姿勢と、経済パーフォーマンスよりも(自分達の天下り先である)金融機関の経営重視姿勢からくる金融政策を改め、データに基づく金融政策に変えるべしというのが、著者の結論です。
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〈2〉つぎに、緊縮財政の問題点について触れてみましょう。
著者は、過去30年の経済停滞要因を、デフレと、政府の過少投資としています。デフレの要因は金融政策ですが、過少投資の原因は、緊縮財政の結果としての、①不適切なPB(プライマリーバランス)と②過大な社会的割引率4%に問題があったとします。
①不適切なPBの背景は、財務省の大ウソである「日本の財政危機」に基づく、緊縮財政です。
著者は、日本の財政状況は、2018年から始まったIMFのPSBS(Public Sector Balance Sheet)による、統合政府のネット資産により、正しく判断できるとします。
つまり、連結(中央政府+地方政府+政府関係機関+中央銀行)ベースのネット資産(グロス資産-グロス負債)で判断すべきなのです。PSBSのネット資産算出の注目点は次の二つです。中央銀行のバランスシートの負債のうち、銀行券と当座預金(マネタリーベース、日銀は2024年3月末682兆円)対応分は、経済的な意味での負債性はないので差引かれます。また、中央銀行が保有する中央政府が発行した国債残高(日銀は2024年3月末590兆円)は、連結で、相殺されます。この結果日本の統合政府のネット資産はほぼゼロになります。外国為替資金特別会計の含み益(45兆円)を勘案すればプラスです。ネット資産ゼロの日本は、G7における財政状態の健全さでは、カナダに次ぐ2番目です。
従って、著者は、中央政府の財政収支のPBではなく、統合政府の連結ネット資産のPBが正しいとします。建設国債で公共投資(道路など)をする場合、統合政府PBを基準とすればネット資産ゼロですので実施OK、中央政府の財政収支のPB基準では実施NOとなります。
②次に、過大な社会的割引率4%ですが、ゼロ金利時代に、割引率4%では、プロジェクトが成り立つわけがありません。著者は、適切な社会的割引率であったならば、G7各国と同レベルの成長を遂げたとの試算(JPタラレバ)をしています。「JPタラレバ」は(注1)の〔図1〕のP1の〈グラフ2〉をご覧ください。
著者は、『失われた30年」から脱却し、力強い明日の日本を築くには、「中央政府の財政収支PB」及び「社会的割引率4%)」の政策を変えなるべし』と言います。
(注1) 過少投資の一例として「各国公的資本形成の推移」及び「過少投資の原因は過大な社会的割引率」について、下記URL〔図1〕を参照下さい。
図1URL: http://glomaconj.com/joho/keiei/sakai20241224-1.pdf
(注2) “大ウソの『日本の財政危機』を検証する” “統計的には、統合政府PB(ネット資産)が正しい”について、下記URLの〔図2〕を参照下さい。
図2URL: http://glomaconj.com/joho/keiei/sakai20241224-2.pdf
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【日経平均最高値更新はバブルか?】
2024年2月22日、1989年の史上最高値を更新し、7月11日には4万2224円02銭をつけました。この高値はバブルでしょうか。著者は、理論株価(日経平均銘柄の経常収益)を大きく上回るのがバブルとします。バブル期の日経平均株価は、理論株価の2倍まで買われました。2010年前後の民主党政権時代には、過小評価のピークで、日経平均株価は理論株価の60%に止まりました。2012年、第二次安倍政権がスタートし、アベノミクス効果により過小評価が徐々に解消され、2020年には過小評価が解消されました。2024年7月11日の日経平均株価は理論株価と一致するレベルであり、バブルではないと、著者は言います。
(注3)「1960年~2022年の理論株価と日経平均株価の推移」は、下記URLの 〔図3〕を参照下さい。)
図3URL: http://glomaconj.com/joho/keiei/sakai20241224-3.pdf
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字数の関係から注目記事のご紹介は以上としますが、『改めて言う、円安は日本経済に「悪影響」ではない』『日本は金融ハブの座を(香港から)奪う好機』などの記事も、新たなデータが加えられており、注目です。
■ 力強い明日を目指す、財政・金融政策とはこれ!(むすび)
上記で「失われた30年」の原因の一部を見て来ました。「失われた30年」を脱却するのは簡単ではなさそうです。力強い明日の実現に向けて、政界、官僚、マスコミ等が、ファクトに基づく正しい認識をし、力強い明日に向けて尽力することを期待したいですね。