■■【経営コンサルタントのお勧め図書】 『「国運の分岐点」中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか
「経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
■ 今日のおすすめ
『「国運の分岐点」中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか』
(デービッド・アトキンソン著 講談社+α新書)
■ 国運の分岐点にある現実を直視し「新しい日本」を築く時(はじめに)
新年明けましておめでとうございます。新年早々、きつい表題の紹介本になりました。しかし、現実を避けて通ることはできません。著者が、日本を愛するが故に思詰めて、紹介本を著作した厳しい現実と、改革の緊急性の存在を確認すると同時に、経営改革の視点から早急に何をすべきか、紹介本から読み取りたいと思います。
著者が指摘する厳しい現実とは何でしょうか。それは世界有数の「人材力」を誇る日本(2016年人材評価ランキングでは4位〈OECD 36ヵ国中〉、2018年国際競争力ランキングでは第5位〈WEF対象140ヵ国。2019年は6位。IMD統計とは別。〉)にも拘らず、生産性(一人当たりGDP)を見てみると、1990年は世界9位でしたが、いまは28位(2018年実質生産性では31位。対象190ヵ国。先進国ではイタリア、スペインを含む最下位水準。)です。この20年間の先進国の給料は約1.8倍に対し、日本は9%の減少です。
この深刻な問題は、「先進国の中で唯一、経済成長をしていない」「デフレから何時まで経っても脱却できない」の二つに集約されると著者は指摘します。
その原因は何か。著者は、データ分析の結果得た「奇跡的な発見」と自負しつつ、「小規模な企業で働く労働者の割合」が日本は、ギリシャと同レベル、イタリア、ポルトガルよりも低く、先進国の中では突出して低いことが原因と指摘します。
著者が指摘する改革の緊急性とは何でしょう。「減る一方の労働者、増える一方の社会保険費用」が日本経済の根底にあることです。現役世代が高齢者を支える人数は「高齢社会白書2019年版」によると、2018年2.1、2025年1.9、2060年1.4とされています。現役世代の一人当たり一時間当たり社会保障負担額は、2019年は824円です。これに対し東京都の最低賃金は時給985円です。手元に残るのはほんのわずかな金額です。一時間当たり社会保障負担額は、現役世代の減少に伴い、2030年1137円、2040年1642円、2050年1900円、2060年2150円と増えていきます。少なくとも、年率約5%弱の最低賃金の伸びがないと現役世代は負担できないのです。2020年の日本の経済成長見通し0.9%(IMF予想)レベルの成長では社会保障制度は破綻すると著者は主張します。日本の新しい「グランドデザイン」が必要と説きます。それは、政策として、最低賃金を年率5%しかも全国一律で強制的に直ちに引き上げるべきとします。そうしなければ、日本は生き延びて行けないと主張するのです。この様な政策により、非効率な企業は集約される結果、小規模企業に働く労働者の割合が飛躍的に減り、経済成長も先進国並みになり、デフレも解消され、「国の破綻」は回避できると著者は主張します。
生産性の観点から言えば、先進国では、小規模企業(20人未満。日本は約300万社の小規模企業で働く労働者は20.5%。スペイン、イタリアと同レベル。)に勤務する労働者の比率が高いほど、その国の生産性は低い(日本28位、スペイン32位、イタリア34位。対象190ヵ国中。)のです。その相関係数は0.93と極めて高いことが統計上明らかにされています(著者の前著「日本人の勝算」より)。
■ 「新しい日本」を築くために何をすべきか!
【中小企業の経営改革をせよ-中小企業の集約・統合による高効率経営を-】
著者の前著「日本人の勝算」(2019年7月のメルマガで紹介)では、次の表現で人口減少の厳しさを表しています。「日本の生産年齢人口(15歳~64歳)は、現在(2017年)の7,682万人が2060年には4,418万人に減ることが予想されています。この4,418万人を大企業から順に割り振ると、352万社中299万社(10人以上30人未満企業の43.5%と10人未満企業すべて)には一人も割り振れないのです」と。つまり、大企業から順に割り振ると、2060年には中小企業は約300万社減り、50万社強しか残らないと言っているのです。
著者はそのような厳しい現実を直視し、緩やか且つ自然体の企業の経営改善と人口減少要因による自然体での企業数減少では、日本の社会保障制度が破綻し「国の破綻」に繋がると主張するのです。
「国の破綻」を回避するために、著者は最低賃金を年率5%、しかも、全国一律で強制的に上げていくことを、労働政策ではなく経済政策の「グランドデザイン」として実施すべきと強調するのです。その結果、経営効率を改革できない中小企業は様々な形を採りながら集約されていくと主張するのです(大企業の賃金も最低賃金引き上げの影響を受けるので、経営効率の改革を出来ない大企業も埒外ではない)。
著者は、「賃上げ」は「国益」であり「義務」であると言い切ります。また前述「日本人の勝算」では、他国の事例を分析しながら、引き上げ率が10%以下であれば雇用・経済への危険性はないとしています。
十分な政策論議を早急に行い、政策により非効率な企業の背中を押し、「高効率経営改革」をせざるを得ない環境作りが必要であると、紹介本から読み取れます。
【その他の提言】
上述の最低賃金の政策的・強制的引上げ以外にも、幾つかの提言を著者がしておりますが、字数の関係もありメインテーマに絞り紹介させて頂きました。その他の提言も、企業経営の観点から参考になる事項が多くあります。紹介本を手に取りお読み下さい。
■ 著者の提言を真摯に傾聴し、実践に移して行こう(むすび)
「国運の分岐点」と表題をつけるほどに、著者は現状の日本経済の状況に危機感を抱いています。それは、著者が外国人なるが故とも思います。残念ながら、日本人の「面倒くさい文化」「なあなあ文化」が改革・進歩を妨げていると著者は言いたいのではないでしょうか(著者の既刊著書『イギリス人のアナリストだから分かった日本人の「強み」「弱み」』参照)。
今こそ著者の真摯なアドバイスに耳を傾け、「国運の分岐点」の時において、「国益」と「義務」である‟高効率経営改革”を実践し、日本を再び輝く国にしようではありませんか。
【酒井 闊 先生 プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
http://www.jmca.or.jp/meibo/pd/2091.htm
【 注 】
著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。
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