内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

集中講義第四日目

2016-07-29 07:40:32 | 講義の余白から

 昨日の演習は、和辻についての博士論文を準備中のYさんが、「近年の技術の倫理学と和辻倫理学」というテーマの下、周到・入念に準備してくれたプランと資料にそって、彼女自身の発表を軸に展開された。
 一コマ目の近年の技術の倫理学についての紹介の中には、私も知らなかった情報が多く含まれていて、大変興味深かった。現代社会において、道徳性が社会の技術的なデザインの中に埋め込まれる形で表現されていること、そのための構成的テクノロジー・アセスメント(Constructive Technological Assessment=CTA)の拡張というフェルベークの技術の倫理学のテーゼが紹介された。その紹介を通じて、高度に技術化し続ける現代社会において、倫理に関わる諸問題がそれに応じて複雑化しつつある現実も浮き彫りにされていった。その現実の複雑化は、私たちの日常生活の中での価値判断にも直接関わってくる。
 そのような現実を身近な問題を通じて学生たちに考えさせるために、Yさんは、「家族との食事中にスマートフォンを使用することは善いか悪いか。その理由も述べよ」という事前課題を学生たちに与えた。それに対する学生たちの回答には興味深いものがあり、私もそれによっていくつか気づかされたことがあった。
 二コマ目の学生たちによる和辻の『倫理学』序論第一節についての内容報告の後、三コマ目では、和辻倫理学の最重要な論点がYさんによって手際よく提示され、それについて出席者全員で議論した。さまざまな論点が出て、十分に議論を尽くすことは時間の制約上無理であったが、和辻倫理学に触れることで善悪の問題を改めて考え直すきっかけを学生たちに与えることはできたと思う。