一時帰国の度毎に日本語の本を買って帰る。しかし、本は束になるとどうしてこう重いのか。今回も、衣類その他の荷物は最小限にとどめ、二つのスーツケースそれぞれに上限ぎりぎりの二十三キロまで詰めたが、とても購入した本全部を持ち帰れない。仕方なく、高くつくが一部はEMSを使って郵送にした。それでも合わせて七十冊ほどである。重たい単行本が二十冊ほど、残りはほとんど文庫本、それに数冊の新書。
その文庫本の中の一冊が、『現古辞典 いまのことばから古語を知る』(河出文庫、二〇一八年)。本書は、二〇一二年に河出書房新社から刊行された『現代語から古語を引く 現古辞典』を、加筆・修正のうえ文庫化したもの。本書の解説にあるように、類書は平成に入ってからまとまって世に現われているが、本書のようにどこにでも手軽に持ち運べる文庫版や電子書籍で手に入るものは他にはないようだ。
各項目に挙げられた古語にはすべて用例が付されており、行き当たりばったりに項目から項目へと散策するようにそれらを読むだけでも、千数百年の日本語の歴史の中で幾重にも積み重なった言葉の地層を垣間見ることができて楽しく、いわば日本語の地層学的探検のためのハンディなガイドブックになっている。
三人の編者、古橋信孝、鈴木泰、石井久雄がそれぞれ執筆した序、この本の使い方、解説は、単に現代語から古語への遡行へと読者を招くだけでなく、古文を書いてみてはと読者に誘いかけており、とても示唆的かつ刺激的だ。
項目には、いわゆるオーソドックスな現代日本語の語彙からだけでなく、「アクセサリー」「アパート」「エンジニア」「カーテン」「ガールフレンド」(なぜか「ボーイフレンド」は項目にない)「テスト」「ニュース」などの外来語、「インテリ」のような外来語の略語、「イケメン」という現代の造語まで採用されている。
巻末の補説は、指示詞・代名詞についてそれぞれ概説し、時間・空間・病気の和語・自然現象・家具調度など(性用語まである)についてそれぞれまとめて語彙を示してあって重宝だ。
定価は一四〇〇円と文庫本としてはちょっとお高いが、中身はそれに十分に値する充実ぶりである。