内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

パリでの佳き一日 ― TGVの車中から

2019-03-16 21:25:08 | 雑感

 今日はパリのイナルコでの日本哲学研究会に日帰りで参加した。この記事を書いているのは、その帰りのTGVの中。
 午前8時19分発のTGVに乗車予定だったが、ストラスブール中央駅に向かうトラムの中でSNCFのサイトをスマホで確認したところ、 « retard indéterminé » との表示。嫌な予感。駅に着いて電光掲示板を見たら、「一時間遅延」との表示。やれやれ。ホールで一時間ぼーっと立って待っているのもバカバカしい。待合室で今日の発表に対する質問の準備をすることにしよう。ところが、十分ほどして、待合室の電光掲示板を見上げると、 « supprimé » との表示。つまり運休である。「マジかよ」と舌打ちし、窓口に向かう。職員が待ってましたとばかりに、振替のTGVのチケットをにこやかに渡してくれる。でも、一言の詫びもなし(だって、私のせいじゃないもんねって感じ)。10時43分発。まだ2時間以上あるじゃん。仕方ない。駅をいったん出て、近くのカフェを探す。普段カフェなどほとんど行かないし、駅付近には TGV や TER に乗るため以外にはまず来ることがないから、どこがいいカフェかもわからない。まるで旅行者みたいに駅周辺を少し歩き回って、ようやく一軒見つける。
 そこで約2時間、今日の研究会の準備。サバティカルイヤーでストラスブールに四年前に一年間滞在なさったとき以来の付き合いの北海道大学のM先生の発表で、しかも私が司会役を務めることになっていたので、研究会の場で想定されうるさまざまな状況に柔軟に対応できるように、三つのタイプに分けた質問を用意する。
 乗車したTGVが出発したのは、さらに15分遅れのほぼ11時。まあ、研究会は14時半からだから、会場のイナルコには余裕を持って着ける。イナルコの近くのカフェ・レストランで昼食を済ませてから向かう。予約されていた教室に着いたら、なんと子供向けのアトリエ開催中。ダブルブッキングである。急遽別の空き教室を同階に見つけてそこに移動。プロジェクターの調整などため、少し開始予定時間から遅れてしまったが、今日は発表者が一人なので、時間的には余裕があり、慌てはしなかった。
 M先生の発表は、林達夫における反語的精神について。林達夫は、日本でも最近はあまり読まれていないようだし、ましてやフランスでは、その名さえほとんど知られていない。ほぼ間違いなく、今回のM先生の発表がフランスでの最初のまとまった紹介であろう。それに、反語(イロニー)というテーマは、いろいろなアプローチでさまざまに展開可能な、フランス語で言うところの « fédérateur » なテーマで、今後も何らかの仕方で継続的に取り上げるに値することが先生の発表を聴きながらよくわかった。
 発表後の質疑応答は、出席者たちからのそれぞれに重要な論点を突く質問とそれに対するM先生の的確かつ誠実な応答だけで十分に活発で、司会者としては楽なものであった。しかし、せっかくの機会だからと、会場からの質問が一通りが済んだ後、用意してきた一連の質問を私もさせてもらった。それらすべてにM先生は丁寧に応えてくださり、質問した側としても質問の甲斐があった。
 研究会の後は、例のごとく、近くのカフェで残った出席者たちが発表者を囲んで自由に歓談。これはこれでいつも楽しい一時だ。
 イナルコ付近のホテルに宿を取られたM先生とはメトロの駅の入り口で別れの挨拶を交わし、帰路についた。
 佳き一日であった。