二週間前のことです。学生たちに『ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~』の抜粋を授業中に鑑賞させた上で次のような課題を出しました。「自分で自由に状況を設定して手紙を書いてください。選んだ状況に応じて、それに相応しい紙・筆記用具・書体・文体を選んでください」という課題です。
課題を見たとき、学生たちはちょっと困惑していました。無理もありません。一方で「自由に書いていいよ」と言っておきながら、他方でこれだけの条件を満たすことを要求しているのですから。
今日がその〆切でした。授業のはじめに「宿題出してくださ~い」と言ったら、みんな一瞬躊躇ってから、なんとなく恥ずかしそうにそれぞれ手紙を持ってきました。
その種々の形については、今日の記事に貼り付けた写真を見てください。二つ瓶詰めの手紙があるでしょ。これは私も想定外。「えっ、瓶詰めなの。嵩張るなあ。でも、まあいいや、このまま受け取ります」って言ったら、差出人の二人の女子学生は嬉しそうでした。手紙とは別に写真が同封されていたり、和紙の便箋にこれ以上繊細な字では書けないだろう字で綴ってあったり、それぞれかなり時間をかけて書いてくれた手紙がほとんどでした。
まだ丁寧に読んではいないのですが、全部で約三十通の手紙にざっと目を通して、実は今ちょっと感動しているところです。実感・想像・空想等々、発想の源はいろいろなのですが、ほとんどすべて「本気」で書いてくれているからです。それもとても丁寧な字体で。なかには日本人顔負けの達筆もありました。
十年後の自分宛に今の自分の煩悶を吐露する手紙、自分が望まれない子であることを知ったうえで両親の仲直りを切に願う手紙、愛する日本語へのラブレター、戦中の検閲を前提としてそれでも愛妻への想いを伝えようとする手紙、自分が自殺した後に読むであろう愛するロシアの兄宛の手紙等々、一つとして似通った内容はなく、それぞれいろいろ思案し、かつ楽しみながら書いてくれたことがわかる手紙なのです。
こちらの期待をはるかに上回る手紙を書いてくれた学生たちに心より感謝します。その返礼として、情け容赦ない添削を差し上げましょうね。