フランスでは十八世紀後半から自己についての内省がさまざまな形で記述されるようになっていく。それは個人における精神的自己の探求や自己の存在感の表現練習などとして実行された。そのような私的自己記述の具体的な社会的形態の一例として、思春期の少女たちに与えられた手帳が彼女たちにとって自分の密かな思いを打ち明けられる心許せる「友だち」になっていた場合を挙げることができる。
これらさまざまな形式による自己についての所記行為の実践が個々人に自分の内なる感情を言葉で表現することができる「場所」を作り出した。その「場所」としての日記は、その書き手たちによってまったく個人的で私的な「空間」と考えられ、自分たちのもっとも内なる感情の「受け皿」あるいは「容器」になっていく。かくして十八世紀半ばから対社会的な外面的自己の記録が自己についての独白的な記述や自己の内面の「肖像画」に場所を譲るようになっていく。