植物についての哲学的考察を披瀝した書物の刊行は、欧米において、ここ数年前例のない活況を呈している。それらの書物のうちの多くがそれぞれの仕方で表明している「植物中心主義」と「植物擬人主義」を批判的に通覧している著作 Florence Burgat, Qu’est-ce qu’une plante ? Essai sur la vie végétale, Seuil, coll. « La couleur des idées », 2020 がこの三月に刊行された。本書の参考文献を見れば、哲学的植物存在論の主要著作についての最新情報が得られる。
著者自身は、動物の哲学が主たる専門分野で、人権とは区別され、それとして尊重されるべき動物の権利の問題等についての著作・論文が多数ある。方法論的には、主にフッサール、ハイデガー、メルロ=ポンティの現象学から多くを学んでいる。
植物の哲学の代表的な論客たちと同様、彼女も人間中心主義的世界観に対しては批判的だが、人間も動物も植物も同一平面上で論じ、植物にも感覚・知性・記憶・意志・権利等を認めようとする倒錯的な植物中心主義と植物擬人主義、それらの中に見られる人間・動物・植物間に安易に適用された類比的表象に対してはきわめて批判的で、そのような傾向を代表する現在活躍中の論者たちを網羅的に取り上げ、それぞれの主張の難点を厳しく指摘している。
批判の要点は、これら植物礼讃的生命一元論は、植物の生態論的存在論が植物の存在の固有性について本来問うべき問題を隠蔽してしまい、植物固有の生態の観点から人間の存在様態を照射することを不可能にしてしまうというところにある。このような一元論的傾向は、人工知能を唯一の説明モデルとした認知機能の還元主義の影響によるものだと著者は見なしている。
植物の哲学の最近の傾向に対して批判的に距離を保ちながら、認識論、存在論、倫理・権利という三つの領野に分けて、それぞれの論点の在処に広く目配りした本書をガイドとしながら、植物の生態学的存在論が何を問題にしようとしており、私たちはそれから何を学ぶことができるかを明日からゆっくりと見ていこう。