内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

偏差値75以上の学生と40前後の学生がいる教室で、あなたはどのような授業をしますか

2020-08-25 23:59:59 | 雑感

 昨日月曜日から大学の事務が再開した。それに合わせて、朝方に九月からの新入生宛に歓迎の辞を学科長として一斉メールで送信した。予想はしていたことだが、それに応えるかたちで新入生から様々な質問が届いた。その文面と内容からわかることは、というか、今年もまた再確認したことは、学生間の目眩がするほどの学力格差である。
 フランスの大学は、日本の大学制度と違って、原則として入試による選抜ができないから、バカロレアを取得していれば、誰でも入学できてしまう。とは言っても、人気学部は、すぐに定員一杯になってしまうから、そういう学部では事実上選抜が実施されていると言ってよい。教育の機会均等を金科玉条とするおフランスでは、「選抜」という禁句を使わないだけの話である。偽善であり、欺瞞である。
 日本学科は、志願者数だけを見れば、ストラスブール大学言語学部で一二を争う人気学部のように見える。が、実情はそうではない。ざっとした数字を挙げて説明しよう。
 定員125名に対して、志願者総数560名。数字上は、競争率4.48倍である。その560名を書類審査で1位から最下位まで順位付けする。そして、それにいくつかのファクターを加えて、上位から順番に合格通知を送信する。もし、本当の人気学部であれば、あっという間に上位から席が埋まり、下位には通知は行かないはずである。ところが、実際は、最下位の学生にまで合格通知が行き、それでも定員に満たず、追加募集をして、ようやくほぼ定員が満たされたのは昨日のことである。
 どうして、こういうことになるのか。今の制度では、大学入学希望者たちは最大10学部・学科に願書を提出できる。彼らはもちろん志望大学・学部・学科に志望順位があるが、それはこちらにはわからない。志望順位のより高い学部から合格通知が来れば、当然彼らはそちらを選ぶ。
 我が日本学科は、彼らのうちの多くにとって、志望順位の高い学科ではない。何位かは人によるが、第一志望としている志願者はごく少数である。だから、いくらこちらから合格通知を送っても、すでに志望順位がより上位の大学から合格通知が来ていれば、当然彼らはすぐに拒否する。あるいは、志望順位のより高い他の大学からの合格通知をぎりぎりまで待つ。
 今年の結果は、過去二年にも増して、コントラストが激しい。一位と最下位がどちらも入学するのである。この事実が意味するところを、日本式にわかりやすく言うと、一流大学にらくらく合格できる偏差値75以上の実力の持ち主と偏差値40レベルのフランス語も満足に書けない学生が同じ教室にいるということである。しかも、一年生は全部で120名くらいいるのである。人数を縦軸、偏差値を横軸とした学力分布図を作成すれば、偏差値60前後にピークが来るフジヤマ型になるだろう。オー、ビューティフル!
 この歴然たる学力差がメール一通の文面に如実に現われる。この厳しい現実を、昨日から今日にかけて新入生から届いた二十通ほどのメールに答えながら、ほろ苦い思いとともに今年もまた噛みしめている学科長四年目の一日なのでありました。