内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

長い一日を祝福で終えることができた喜び

2020-11-14 11:57:40 | 雑感

 昨日は、午前十一時から午後六時過ぎまで、まったく切れ目なしに授業三つと博士論文の公開審査が続いた。ちょっときつかったが、なんとか無事乗り切った。三つの授業の合間にそれぞれ十分間の休憩を取った。ちょっとコーヒーを飲むとかトイレに行くとかでその休憩もすぐに終わってしまう。合計四時間以上、ZOOMでスライドを共有しながら、ひたすら学生たちにフランス語で話す。
 「近代日本の歴史と社会」では、前半で苅部直の『「維新革命」への道』が提起する近代思想史へのアプローチの意義について説明し、後半では前田勉の『江戸の読書会』の要所を読んだ。授業の終わりに、年明けにZOOMを使って遠隔かるた大会をやるから、今から百人一首を勉強しておけと、いくつかサイトを紹介しておく。「メディア・リテラシー」では、学問の自由と表現の自由について論ずる。修士の方法論演習では、急遽予定を変更して、伊藤亜紗の『手の倫理』の序を方法論の観点から精読し、そこに示されている「さわる」と「ふれる」の区別が、別の演習で読んでいる和辻の『風土』の理解にも一つの手がかりを与えてくれることを示唆する。
 修士の演習が終わって一息つく暇もなく、今度は Teams を使ってブリュッセル自由大学での博士論文の公開審査に外部審査員として臨む。審査開始前の三十分間、まず審査員が「審査会場」とは別の「部屋」で事前の打ち合わせをし、午後四時から審査開始。審査員は指導教授を含めて五人、指導教授の講評の後、私は二番目に講評を述べた。博士論文は、大森荘蔵の立ち現われ一元論を主な考察対象としていたが、大森荘蔵の哲学研究の最初期から『物と心』に至るまでの変遷を丁寧に辿る第一部と立ち現われ一元論の詳細な分析からなる第二部から成っている。大森荘蔵の哲学について仏語で書かれた最初の博士論文としての高い価値を評価したあと、いくつか訂正されるべき点について述べ、最後に五つの質問をする。それらに対して満足のいく回答を博士号申請者から聴くことができた。審査終了後、「別室」で最終審査。全員一致で博士号授与承認。また「審査会場」に戻って、博士号授与の発表。フランスの大学と違って、評価のランクはない。審査員全員で祝福の拍手を送って審査終了。
 かくして博士号を取得した彼のここまでの長い道のりとその間の労苦を知っているだけに、心からの拍手を送りたい。おめでとう!