昨日、私が指導教官を務めた学生の修士論文のZOOM公開口頭試問があった。審査員は私を含めて三名の日本学科の専任教員。修士の学生たちに知らせておいたところ、十一名が「傍聴」に来た。教室で行う場合よりも多い。これはまさに遠隔の効用である。彼らも、すでに論文作成に入っているか、これからその準備に入るのだから、審査がどのように行われるか見ておきたいという気持ちは当然あるだろうが、わざわざ審査を傍聴するために大学まで出向かなければならないとなると、億劫になってしまいがちだ。ところが、遠隔ならそれぞれ自宅にいながらにして気軽に「出席」できる。
審査は約二時間。私はすでに作成過程で何度も当該の学生とやり取りして、その中で学生に質問し、彼から回答を得、私のコメントも繰り返し送ってあったので、同僚二人に主に講評と質問をしてもらった。かなり厳しい批評も出たが、主題の独自性と基礎資料の集成とその分類の努力には高く評価すべき点があり、合議の結果、評点としては十六点(二十点満点)を与えた。論文には明らかな欠陥もあったのだが、当の学生は博士課程に進むつもりはないこともあり、提出を許可した。その条件下では最高点と言ってよい。
主題は、振り仮名・当て字という日本語に独特な表記法である。論文は、その諸相を主にライトノベルを基礎資料として丹念に分類し、この表記法がもたらす表現的効果を考察したものである。学生は、この問題に学部三年のときから興味を持ちはじめ、修士に入ってからも持続的に考察を重ね、早稲田大学に一年間留学し、その間に研究資料を収集し、帰国後二年かけて論文を完成させた。
この学生を学部時代から指導してきた。全般的にきわめて成績優秀な学生なのだが、修士論文の主題としては、扱う対象が限定されすぎており、これではいずれ袋小路に入り込むのではないかと懸念していた。しかし、修士論文としてまとめることでこの研究に区切りをつけるのであればと、強いて主題の変更・拡張は求めなかった。
修士論文作成を通じて学んだことが彼のこれからの人生の中で何らかの形で役に立つことを心から願っている。
修士号取得、おめでとう!