タイトルだけ見ると、闘病日記あるいは看病物語の類かと思ってしまうが(それにそれはまったくのまちがいではないのだが)、この本は、地球環境の危機的状況を少しでも改善しようと生涯をかけて闘い続けたフランス人地球物理学者によって書かれた、いわば「戦中日記」である。
著者エレーヌ・ソレイユは、フランスのプロヴァンス地方に1976年に生まれ、1998年に理工科大学校を主席で卒業後、直ちに国防総省に入省、勤務の傍ら、地球物理学の分野で博士号を2004年に取得する。2010年に同省を退省。その後は、在野の研究者として世界各地を回って地球環境の危機を訴え続け、またその危機に対処するための具体的手段を提案してきた。
彼女は、自らのことを、瀕死の状態にあるガイア(地球)の病床に寄り添い、できるだけの処置を続ける「看護師」だと言っていた。本書のタイトルは、そんな彼女の覚悟を表しているのである。「あなた」とは、言うまでもなく、ガイア(地球)のことである。
数年前、一度インタビューしたことがあるが、実にシンプルで質素な身なりでありながら、宇宙から見たガイアのごとく澄んだ青き瞳をもった、輝くばかりに美しい女性であった。
まさに一日も休むことなく世界中を駆け回り、ときに絶望感に襲われながらも、いたるところで苦しみの呻きをあげるガイアの看病に奮戦していた彼女は、三年前、流星のごとくに急逝された。膵臓がんだった。享年四十三歳。
まことに痛ましい最期であったが、ガイアの最期を看取ることなしに逝去したことは、彼女にとって、あるいは幸いなことだったと言えるのかもしれない。