昨日の朝、大学のアドレスに届いているメールの処理をしていて、スパムが一通あったので、ただそれを削除するためにスパムのページを開いたら、件名が「著作物利用申請書」となっている。先日のクレジットカード不正使用の一件があるから、ちょっと不安ではあったが、一応開いて中身を確認してみた。
著作物利用申請の代行を行っているという日本著作権教育研究会(一般社団法人)からのメールである。同研究会のサイトを見てみると、別に怪しい組織ではなさそうだ。用件は、関西の某私立大学の今年の国語入試問題にその一部が使用された『現代思想』2021年1月号に掲載された拙論「他性の沈黙の声を聴く 植物哲学序説」の本文を、同大学が受験希望者に無償で配布する過去問集へ掲載することの諾否を回答してほしいということだった。
依頼書には入試に使用された本文及び問題文も添付されていて、拙論本文十一頁中のはじめの方の約四頁が使われている。設問形式は、本文中の表現を指定字数内でそのまま抜き出させる問題以外は、すべて選択問題である。漢字や漢語の意味に関する問題の正解ははっきりしている。文脈抜きで解答できる問題もある。ところが、内容に関する五択問題に関しては、筆者本人である私も一瞬迷ってしまうような選択肢が並んでいる。
それら不正解の選択肢を読んでつくづく感心するのは、一見正しそうだけどどこか間違っている文を考え出す問題作成者たちの想像力の豊かさである。私はまったく経験がないからわからないが、何かコツやらテクニックがあるのだろうか。受験生が引っ掛かりやすいように微妙に内容が本文と違っている文をよくもまあこれだけ捻り出せるものだとほとんど感嘆するほどである。その作成時の苦労が忍ばれさえする。というわけで、拙論を入試問題に使ってくださったことへの感謝の徴として掲載を承諾した。
と同時に、それらの紛らわしい選択肢の中から限られた時間で一つ選ばなければならなかった受験生たちのことはちょっと気の毒に思った。焦るとなおのこと迷ってしまっただろう。拙論が使われた問題のせいで国語の点数が悪くなり、結果不合格になってしまった受験生諸君にはこの場でお詫び申し上げます。
でも、これだけは言わせていただきたい。私は君たち受験生を苦しめるためにあの論考を書いたのではないのです。