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踊る小児科医のblog

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八戸の産科医療崩壊をくい止めるために

2006年12月01日 | こども・小児科
19日に開催された八戸医学会で「日本医師会における医療安全に関する取り組み」と題して日本医師会常任理事の木下勝之先生(順天堂大産婦人科教授)の講演があり、現在の医療崩壊の危機をどう防ぐかという緊急課題についてのお話と出席した医師からの熱心な議論がありました。

ちょうどニュースになっている「無過失補償制度」についても導入の経緯などが詳しく説明されたのですが、説明しようとすると長くなるので記事のリンクだけで失礼します。

特に、現在の産科医療を取り巻く厳しい環境(何かあれば医療訴訟だけでなく刑事事件の犯人として逮捕されるという事態)の中で、産科医療の崩壊が急速に進んで悪循環から抜け出せなくなっている。

その中で、八戸市の産科医療の現状と将来についての発言がありました。
「産科医療の崩壊」と言っても上十三とか他の地域の話で、この地域の中心である八戸ではまだ大丈夫、などとのんびり構えていたら大変なことになりそうです。

ご存じのように労災病院では産科医が1人になってお産をいったん取りやめましたが、最近になってリスクの少ない分娩だけを再開しています。
市民病院も以前より少ない産科医で頑張っている。
市内の開業医で実際にお産をしているところは限られているのですが、この秋に一件が分娩を取りやめました(実はそこが一番若手)。
その他の産科医も3年後、5年後にはある程度以上の年齢となるため、いつまで続けられるかはわからない。
実際に数年後にお産をやめることを表明されている先生もいるとのことです。
これから開業する若手がいたとしても、現在のような状況では新たにお産を扱うことは非常に考えにくい。

そうなってくると、音を立てて崩れ落ちるように八戸の産科医療が崩壊していく事態も、決してあり得ない話ではない。
というよりも、目前に迫った危機です。
この2年間で何とか目処を立てることができなければ、一気に現実のものとなる。
残された大病院の産科も対応しきれなくなる。
勤務医の労働環境も更に悪化し、退職して開業する産科医が続出すれば悪循環が更に加速する。

安心して赤ちゃんを産むことができないまちに、未来はありません。
少子化対策とか、まちづくりとか、地域コミュニティ再生とか、いくらそんなお題目を唱えていても、産科医療が崩壊すれば一気にまち全体が滅びへの道を辿ることになります。
(大げさじゃなくてホントに)
もちろん小児科医も一蓮托生。

これは八戸に限った問題ではありませんが、この地域において、言葉は悪いかもしれないけど「八戸が最後の砦」という状態を何とか維持しなくてはいけない。
(他の地域がどうでも良いという意味ではなく)
いまがその瀬戸際。

恐ろしい話だし、すぐに効く特効薬はない。
地域における取り組みといっても限界があり、冒頭に書いたような国レベルでの様々な方策も必要。

何よりも、今の厳しい医療費抑制政策を転換することから始めないとどうにもならない。
絞るだけ絞り上げておいて、地方の医療が厳しいからそこに若い医者は行くべきだなんて徴兵制みたいなことを言っても、誰も見向きもしない。

ほとんどの医師が、この国の医療環境は今後も悪くなる一方で将来に希望が持てないと感じている中で、保身を第一に考えるのは当然の選択でしょう。

全国知事会議で尾身財務相が「地方の医師不足は天災ではなく人災だ」と言っていたようですが、要するにこの事態は政府の失政が原因だと公式に認めたわけですね。