熊本熊的日常

日常生活についての雑記

鴬谷駅下車

2006年05月19日 | Weblog
物心ついた頃から、日暮里と鴬谷の間のホテル街に関心があった。以前にも書いた記憶があるが、子供の頃は週末毎に交通博物館に通っていたので、その行き帰りにここを電車で通過していたのである。たまに国立科学博物館に行く時は、上野ではなく鴬谷で下車していたので、そこが寂しい駅だということも知っていた。なぜ、繁華街でもないところにこれほどホテルだけが集積するのだろう?通っていた高校が新大久保にあり、環境としては似た状況だったので、なんとなく事情は推察できる。しかし、きちんと調べたことではないので今は書かない。

さて、今日は鴬谷駅で下車した。鉄道を跨ぐ長い陸橋を渡り、言問通りを左折し、鴬谷駅前交差点を右折する。この間、私の左手にはホテル街が続いている。尾竹橋通りと尾久橋通りの角に笹乃雪という豆腐料理店がある。ここでお昼をいただくことにする。

この店は創業元禄4年(1691年)という老舗中の老舗である。入り口の引き戸の前に立つと、中にいる法被を着た店員が戸をガラガラと開けてくれる。靴を脱ぎ、番号が書かれた木札を受け取り、中に案内される。予約も無く、ひとりでふらりと来たので、当然、相席用の広い座敷に通される。客の姿は少なく、テーブルは2組しか埋まっていない。窓際の席に落ち着き、外の箱庭のようなものを眺める。滝のようなものがしつらえてあり、大きな岩に水が流れている。自然の湧水らしい。何を注文したらよいのかわからなかったので、「朝顔セット」というコースにした。小付けに子持ち昆布の煮物、煮豆腐、この店発祥の品である「あんかけ豆富」、胡麻豆腐、「雲水」という湯葉巻きの豆乳煮、「うづみ豆富」という豆腐の茶漬け、そしてデザートに「豆富アイスクリーム」。ここの豆腐は、この地の湧水で造られるのだそうだ。料理はおいしいが、それ以上に、300年以上も続く店で食事をするということに価値があるような気がする。ちなみに、この店では豆腐は「豆富」と表記する。

笹乃雪を出て、裏手に広がるホテル街を抜けると住宅地になる。その境あたりに通りをはさんで子規庵と書道博物館が向かい合っている。

子供の頃、書道を習っていた。小学校の6年間、毎週日曜日にバスに乗って教室に通っていた。そのせいか、文字というもの、書体というものに関心がある。展示品の数は多くないが、あっという間に1時間ほどが過ぎてしまった。先日、何の気なしに覗いた鳩居堂で、書道への関心が呼び覚まされた思いを感じたが、今日はその思いが強くなった。ちなみに、私の書く字を知る友人知人は、私が書道を習っていたと言っても、誰も信じてくれない。何故だ?

鴬谷から電車に乗って神田に出て、三井記念美術館に行く。永楽保全・和全の作品展が開催されていた。京焼は中国磁器の写しである。その製作者である永楽家は千家の茶道具を製作する千家十職のやきもの師なのだそうだ。勝手な想像だが、客の注文に応じて作陶するという点で、芸術家としての陶芸家とは別ではないかと思う。展示されている作品は技巧的には素晴らしいのだが、なにか根本的な部分で欠けているものがあるように感じられた。

美術館のなかの喫茶室で抹茶パフェを食べてから、職場に向かった。