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死んだらどうなるのかは、死んでいないから分かりません。
誰もがそうでしょう。
しかし、意識がなくなる状態というのは、毎晩経験しているはずです。
寝るようなものだと思うしかない。
養老 孟司
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棋界に二人目の「女性棋士」が誕生した。
天才女性棋士・藤野 桂成の愛弟子・中村 加奈梨は『鬼の三段リーグ』を師匠と同じく“一期抜け”した。
各スポーツ紙は、悲運の師匠の顔写真と共に、新四段を称える記事をトップ紙面で報道した。
愛菜は、ソータとカナリの写真の前に、そのうちの一紙を供え、
「ソーちゃん。カナちゃん。
加奈梨ちゃんやりましたよ」
と吉報を告げた。
加奈梨もまた早朝から、師匠と大師匠の墓前に花を手向け
「カナリ先生。ソータ師匠。
おふたりのおかげで、プロ入りが叶いました。
ほんとうに、ほんとうに、ありがとうございました。
これから、より一層、精進いたしますので、どうぞ、お見守りください」
と祈った。
頭を垂れ瞑目していると、
(カナちゃん。おめでとう!)
という二人の声が、確かに心の中に聞こえた気がした。
そして、目に見えない「暖かなもの」が、自分をふんわり包んでくれるような気配を感じ、泪がこぼれた。
愛聖園の理事でもあったカナリの急逝で、子どもたちや職員たちも哀しみと憂いに包まれていた。
ソータ師匠とカナリ師匠が始めた『しょうぎまつり』の日。
唯一の弟子であり、孫弟子でもある加奈梨が初めてプロ棋士として参加することになった。
それまでも、師匠の鞄持ちとして何度も参加させては頂いていたが、今度は、自分が子どもたちに将棋の魅力を伝え、教えていかなくてはならない立場になったのだ。
そう思うと、背筋がピンと伸びる思いがした。
(ここは、カナリ先生の「ご生家」でもあるんだ・・・)
と思うと、その聖地を訪れる巡礼者のような気持ちになった。
玄関前に立つと、建物全体がまるでカナリ先生のたましいを感じさせた。
その懐かしいような、尊いような、敬虔な感じが、思わず自然と頭を垂れさせた。
『将棋祭り』開催に際して、簡素な追悼ミサが執り行われた。
お歳を召された園長先生は、まだ幼な子だったカナリが描いたマリア様の絵を大切に保管されていた。
それをその場の全員に披露し、そしてお言葉を述べられた。
「カナリちゃん。
こうも早く、この私よりも、マリア様の元に行かれるなんて、夢にも思いませんでしたよ。
あなたはこの世に生まれてきて、大勢の人たちに愛され、そして愛し、とても大きな奇跡を起こしましたね。
なんと素晴らしい人生でしょうか。
あなたは世界で一番強い棋士になり、そして、世界で一番素敵な女性になりました。
どれほど多くの人が、あなたに夢を見、希望を抱いたことでしょう。
ほんとうに、ありがとう。
とっても、とっても、貴重な、偉大な仕事をしてくれましたね・・・」
と、言った処で、老園長の頬を濡らすものがあった。
副園長やシスターたちも、思わず、うつむいて泪を溢れさせた。
加奈梨も、目を潤ませ、唇を噛んだ。
「カナリちゃん。
今は安らかな天国にいることを私は知っています。
あなたが尊敬し、愛してやまなかったソータ師匠のそばにいることも知っていますよ。
ほんとうに、ほんとうに、よかったですね。
今日は、あなたを尊敬し、愛してやまない加奈梨ちゃんが、来てくださいました。
あなたの確かな愛は、この世にきちんと、しっかりと残っていますよ。
ほんとうに、ありがとう。
ありがとうございました。
藤野 桂成 先生・・・」
老園長は、瞑目すると、天に向かって合掌した。
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