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女医は、圭子から渡された一枚の紙片に目をやると、素早くその文字に目を走らせた。
そして、読み終えるや、しばし、絶句した…。
これは、患者は、大変な自責観念に捉われているだろう、ということが容易に想像がついた。
「ありがとうございます…。
これを書かれるのは、大変だったでしょう…」
女医が患者の目の奥を見透かすように語ると、その目は潤み、やがて大粒の涙が幾重にもあふれ出た。
「お辛いでしょうね…」
という言葉かけに、患者は黙って首を折った。
女医は、クスリによっての不眠と食欲の改善、抑うつ感、悲哀感の軽減を待つことにした。
「田川さん。
この事については、お体の調子が整ってから、お話し合いしましょうね」
そう、言って、パソコンに向き合うと、女医はカチャカチャとキーボードを叩いて、何事かを打ち込んだ。
圭子は、また2週間分の薬を処方され、帰途についた。
道々、どこかホッとしたような軽い安堵の気分を感じていた。
それは、あのメモを元に、あれこれ訊かれでもしていたら、とてもじゃないが、冷静に応えられるどころか、パニックに陥ってどうなってしまったか、想像だにつかなかった。
しかし、いつかは、あの出来事と真正面に向き合わねばならないことは、どこかで覚悟をしていた。
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