『人生を遊ぶ』

毎日、「今・ここ」を味わいながら、「あぁ、面白かった~ッ!!」と言いながら、いつか死んでいきたい。

  

震災短編『贖罪』10

2022-11-16 07:56:46 | 創作

 

 女医は、圭子から渡された一枚の紙片に目をやると、素早くその文字に目を走らせた。
 そして、読み終えるや、しばし、絶句した…。

 これは、患者は、大変な自責観念に捉われているだろう、ということが容易に想像がついた。

「ありがとうございます…。
 これを書かれるのは、大変だったでしょう…」 

 女医が患者の目の奥を見透かすように語ると、その目は潤み、やがて大粒の涙が幾重にもあふれ出た。

「お辛いでしょうね…」
 という言葉かけに、患者は黙って首を折った。 

 女医は、クスリによっての不眠と食欲の改善、抑うつ感、悲哀感の軽減を待つことにした。

「田川さん。
 この事については、お体の調子が整ってから、お話し合いしましょうね」
 そう、言って、パソコンに向き合うと、女医はカチャカチャとキーボードを叩いて、何事かを打ち込んだ。  

 圭子は、また2週間分の薬を処方され、帰途についた。

 道々、どこかホッとしたような軽い安堵の気分を感じていた。 

 それは、あのメモを元に、あれこれ訊かれでもしていたら、とてもじゃないが、冷静に応えられるどころか、パニックに陥ってどうなってしまったか、想像だにつかなかった。
 しかし、いつかは、あの出来事と真正面に向き合わねばならないことは、どこかで覚悟をしていた。

 

       

 

 

 

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