石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

三大産油国米露サウジのつばぜり合い Part 3:各国の石油戦略は?

2020-05-06 | その他

(注)マイライブラリーでPart1-3をまとめてお読みいただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0501ThreeBigOilProducers.pdf

 

1. 各国トップと石油産業:類似点と相違点
 三大産油国である米露サウジのトップはそれぞれトランプ大統領、プーチン大統領及びサルマン国王である。サウジについては石油・外交・経済政策など全般をムハンマド皇太子が実質的に取り仕切っているため本稿では国王/皇太子を一体化して論を進める。

 米露は有期の大統領制国家であり、サウジは世襲の絶対君主制国家という違いはあるが、現在の統治者がいずれも強権的、独裁的である点では共通している。従って各国の石油政策はトップの意向に強く支配されることになる。

 一方で各国の石油産業構造にはかなり大きな違いがある。米国は自由経済の国であり、石油産業にはExxonMobilのような巨大企業から小規模なシェールオイル業者まで多数の企業が乱立している。ロシアはガスプロム、ルクオイルなど企業数はさほど多くない。サウジアラビアは国営石油会社サウジアラムコ一社だけである。

 この二つの事情が意味するところは、各国トップの国内石油産業に対する指導力の強弱に表れる。民間企業を恣意的に制御できないトランプ米大統領は業界有力者との話し合いを強いられる。プーチン大統領は強権的手法を駆使して国内の石油企業を従属させる。サウジアラビアの国王/皇太子は国営企業アラムコを意のままに操ることができ、政策決定のスピードでは米露を圧倒できる。万一石油政策が失敗した場合、米国の大統領は「推定有罪」、ロシアの大統領は「推定無罪」、サウジアラビアの国王/皇太子は「完全無罪」である。絶対専制君主制のサウジアラビアでは国王/皇太子は誰からもその責任を問われないからである。

2. 3カ国の強みと弱み
 3カ国にはそれぞれ強みと弱みがある。米国の強みは世界最強の軍事力・経済力及びドルによる金融支配力である。石油産業に限れば米大統領の弱みは民間の石油業界に直接あるいは間接に介入することができないことである。今秋の再選を目指すトランプ大統領にとって石油産業の雇用を維持すると同時に、一般消費者には安価で豊富なガソリンを供給することが必要である。しかしこの二つは本来二律背反である。これまで両立できたのは、OPEC+(プラス)の協調減産と、米国のイラン及びベネズエラに対する経済制裁により供給が抑えられた結果、石油価格が60ドル前後で推移し、同時に国内シェール業者の開発ブームにより雇用が創出されたという、二重の僥倖に支えられていたのである。

ロシアの強みと弱みは西欧諸国に対する石油・ガスの供給力であり、また中東に対して一定の影響力を有していることである。これはユーラシア大陸でロシアと中東及び欧州が陸続きであることがその要因である。但し一方では不安定なユーラシア情勢に揺さぶられるという弱みでもある。

 サウジアラビアは米国、ロシアと比べ現状では安定していると言えよう。原油の余剰生産能力は2カ国より大きく、低価格に対する耐久力も高い。国内には国王/皇太子に対抗する勢力はなく体制は安定している。これまでのオイルマネーの蓄積により財政的に余裕があり、今後経済が低迷するとしても国王/皇太子は当面、金をばらまくゆとりがある。同国のただ一つの弱みは米国に完全追随せざるを得ないことであろう。防衛力は極めて脆弱であり、米国製近代兵器によってかろうじて支えられているのが現実である。イエメン内戦による自国への脅威を防ぐには米国に頼るしかない。これまで共同防衛行動をとってきたUAEなどのGCC各国、あるいはエジプトとの関係は現在必ずしも良好とは言えないからである。

3. 今後の3カ国の戦略は?
 昨年末までの石油需給バランスはもっぱらサウジアラビアとロシアによるOPEC+の協調減産とこれにタダ乗りする米国シェール石油企業の増産により供給バランスが保たれてきた。しかし昨年末からのコロナウィルス禍により世界経済は突然変調をきたし、石油需要は激減、Brent原油価格は60ドルから20ドル台に急落している。因みに最新のIMF世界経済見通しによれば、今年の世界の成長率は前回(昨年10月)の予測+3.4%から一転して-3.0%に落ちている。米国、日本など主要国も軒並みマイナス成長に転落、過去数年6%以上の成長を続けていた中国も今年は1.2%に急落する見通しである 。またExxonMobilの第1四半期はマイナス決算になり 、シェール石油企業は倒産の危機に見舞われている 。

状況が悪化する中で3か国は今後どのような石油政策を展開するのであろうか。米国は圧倒的な国力を背景に自国に有利な片務的ディール(取引)に専念しそうである。先のOPEC+会合で970万B/D協調減産が合意したとき、OPEC+は米国にも具体的な減産を求めたが、トランプ大統領はカナダやメキシコの減産には触れたものの、自国については原油価格の下落に伴い国内企業はやむを得ず減産するであろうと述べるにとどまった。もし減産を強制すれば再選の支持基盤である石油業界の反発を受けるからである。

 これに対してエネルギー政策と、西欧・中東に対する外交政策を天秤にかけるのがロシア大統領である。米国が中東離れを宣言、EUもBrexitなど内部問題に手を取られている隙に、ロシアはクリミア併合、シリアのアサド政権支援など敵失に乗じて得点を挙げている。

サウジアラビアはどうかと言えば、3カ国の中では最も弱い立場にある。石油の輸出に頼る同国は、環境問題に絡んだ石油から天然ガスへの転換では、天然ガスの生産と輸出に強いロシアに後れを取っている。当面の財政難を乗り切るため外貨の取り崩しが続けば、近い将来赤信号がともることは避けられない。その時、これまでのレンティア国家(金利生活)に慣れ切ったサウジ若年層は耐えられないであろう。

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前田 高行
maeda1@jcom.home.ne.jp

 

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