2017.6.8
荒葉一也
1.サウジがカタールに断交通告
6月5日(月)早朝、サウジアラビアが隣国カタールに国交断絶を通告した。ほぼ時を同じくしてUAE、エジプト及びバハレーンも同様の通告をしている[1]。このうちサウジアラビア、UAE、バハレーンの3か国はカタールと同じGCCの構成メンバーであり、いずれもアラブ民族のイスラーム・スンニ派国家である。国の規模で見ればカタールは人口わずか220万人。MENA(中東北アフリカ諸国)の中ではバハレーンに次いで人口が少なく、しかもそのうち自国民は40万人足らずで残り8割強は出稼ぎの外国人労働者である。これに対してサウジアラビアの人口は3,200万人、エジプトに至っては9,200万人である[2]。また国土の面積もサウジアラビア及びエジプトがそれぞれ200万平方キロ、100万平方キロに対してカタールは1万平方キロに過ぎない[3]。
今回の断交はサウジアラビアが主導してエジプト及びUAEがこれに同調したことは間違いない。それが証拠に国交断絶の3日前、アブダビのムハンマド皇太子がサウジアラビアを訪問、サルマン国王と会談している[4]。そして4日にはサウジアラビアのジュベイル外相がエジプトを訪問し同国外相と会談を行ったと報じられている[5]。いずれの会談もその詳細は明らかにされていないが、推理するとカタールとイラン或いはイスラム過激派のテロ組織と名指しされているムスリム同胞団の間に何らかのつながりがあるとする証拠をUAEがサウジアラビアに提示し、それを重大視したサルマン国王がエジプトに働きかけて4か国同時に断交を通告したものと考えて間違いないであろう(バハレーンは国防・経済面でサウジアラビアに全面的に依存しており、サウジアラビアの決定に対しては無条件に従う)。
UAEは国際自由都市ドバイに中東の情報が集まり[6]、イラン及びムスリム同胞団の動きに通じているものと考えられる。イランはサウジアラビアの仇敵であり、イスラム同胞団はエジプトの軍事政権が最も警戒している勢力である。またシーア派が国民の7割以上を占めるバハレーンでは少数派であるスンニ派・ハリーファ王家がイランの影におびえている。そしてUAEはペルシャ(アラビア)湾のアブ・ムーサ島など三島の領有権をめぐってイランと係争中である。
一方、カタールはハマド前首長の時代から全方位外交を掲げ、イランはもとよりかつてはイスラエル通商代表部の設置を認める等、他のGCC諸国とは明らかに異なる自主外交を打ち出してきた[7]。カタールの独自性を象徴するのがアル・ジャジーラ・テレビである。世界でその名を知らない者がいないほど有名なアル・ジャジーラはかつてはサウジアラビア、エジプトなど中東各国の神経を逆なでするような報道を繰り広げた。それが中東諸国の庶民の心をとらえ、また欧米各国からも高い評価を得て、カタールとハマド首長(アル・サーニー家)の名声を高めた。しかしそれは他のアラブ諸国を敵に回すことでもあり、各国がアルジャジーラ支局の閉鎖を命じたことも再三であった。現在アル・ジャジーラは比較的おとなしくなったとは言え、他のアラブ諸国の統治者にとっては警戒すべき煙たい存在なのである。
このように見ると今回の断交はサウジアラビア、エジプト、UAE(そしてバハレーン)が寄ってたかって小国のカタールを締め上げているという図式になる。現在両陣営は他のMENA(中東北アフリカ)諸国を味方に引き入れようと活発な外交を展開している。4か国に引き続いてイエメン、リビア(但し東部地区のみの支配政権)、モルディブ、モーリシャスもカタールに断交を通告した。さらにモーリタニアも追随、ヨルダンは外交関係のレベルを下げ、アル・ジャジーラ支局の免許を取り上げた[8]。一方のカタールはトルコに働きかけ、エルドガン大統領からカタールの立場に理解を示すとの言質を取り付けた。両陣営は米国及びロシアにも働きかけているが、トランプ大統領もプーチン大統領も両陣営が外交的努力により平和的に解決するよう諭すだけで態度を明確にしていない[9]。中東情勢が複雑で混迷を極めているため米国、ロシアのいずれもどちらか一方に肩入れできる状況ではなく、特に米国はカタールに空軍基地を持ち、他方サウジアラビアは米国製兵器の最大の顧客である[10]ため板挟みの状態にある。
GCC6か国の中で当事国以外の国はクウェイトとオマーンの2か国のみである。このうちクウェイトは仲介に乗り出し、サバーハ首長はカタールのタミーム首長と電話会談の後、リヤドに乗り込んでサルマン国王と協議している[11]。サウジアラビアとカタールの争いの根は案外深く両国が仲直りするのは時間がかかりそうだ。そしてGCCの残る一国オマーンはだんまりを決め込んでいる。そのオマーンがイランと特別な関係を維持していることは世界中の国々が知っている。
今やGCCはバラバラになりつつある。このためカタールがGCCを脱退するシナリオがかなり現実味を帯びている。世界を見渡すと自国の利益を優先させるため国際的な枠組みを無視或いは排除する傾向が顕著である。米国のトランプ政権はTPP及び気候変動パリ協定(COP21)から離脱した。そして英国はEUからの離脱を決定、Brexitなる新語が生まれた。次なる新語はQatarexit(カタールのGCC離脱)になるかもしれない。Qatarexitは規模こそBrexitよりはるかに小さいが国際経済に与える影響はけっして小さくない。
(続く)
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荒葉一也
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[1] Bahrain, KSA, Egypt and UAE cut diplomatic ties with Qatar
2017/6/5 Arab News
[2] MENAシリーズ2:「MENA諸国の人口と平均寿命」(UNFDP資料)参照
[3] MENAシリーズ:「MENAランク一覧表」参照
[4] King Salman, Sheikh Mohammed discuss regional situation
2017/6/3 Saudi Gazette
http://saudigazette.com.sa/saudi-arabia/king-salman-sheikh-mohammed-discuss-regional-situation/
[5] Saudi, Egyptian FMs discuss anti-terror cooperation
2017/6/5 Saudi Gazette
http://saudigazette.com.sa/saudi-arabia/saudi-egyptian-fms-discuss-anti-terror-cooperation/
[6] 参考:「暗殺と背徳渦巻く国際犯罪都市ドバイ」(2010年3月)
[7] 例えば「MENA騒乱でサウジアラビアとカタールが見せた対照的な外交活動」参照
[8] Mauritania cuts ties with Qatar, Jordan to downgrade representation
2017/6/7 Arab News
[9] Trump committed to working to de-escalate Gulf tensions
2017/6/6 Arab News
[10] US says nearly $110 billion worth of military deals inked with Kingdom
2017/5/21 arab News
[11] Kuwaiti ruler and King Salman meet amid Qatar row
2017/6/6 Arab News
http://www.arabnews.com/node/1110916/middle-east
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