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第7章:「アラブの春」―はかない夢のひと時(7)
174 「アラブの春」の訪れ(3/4)
そのような庶民の絶望感がチュニジアで2010年12月、ある事件を引き起こした。生活のため已む無く路上で野菜を売っていた失業中の一人の青年に対して警察官が当局の許可がないことを理由に商品を没収した。当時のチュニジアの失業率は14%と公表されていたが、実際にはもっと高く、特に青年層では25~30%と言われるひどい状態であった。生活の糧を奪われた青年は市役所前の広場で抗議の焼身自殺を図った。焼身自殺そのものはイスラーム世界でもさほど珍しいことではなく、そのままであれば地元の新聞に小さく扱われただけだったと思われる。
しかし偶々通り合わせた市民が一部始終を動画に収めてYouTubeに投稿したため騒ぎが一挙に拡大した。SNSは一端ネット上に掲載されると際限もなく拡がる。事件の一部始終をネットで見た若者たちは直ちに抗議活動に立ち上がり、デモを呼びかけた。デモはたちまち首都チュニスから全国に広がった。デモ隊は23年間にわたるベン・アリ大統領の退陣を求めた。デモ参加者の殆どは生まれた時からずっと同じ大統領である。彼らは「もう沢山だ(ファキーア)!」と叫んだのである。燃え盛る反政府デモに押され、ベン・アリ大統領はわずか1か月後政権を放り出してサウジアラビアに亡命したのであった。
(続く)
荒葉 一也
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