石油と中東

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「女王陛下のShell(貝)」になったロイヤル・ダッチ・シェル石油

2021-12-16 | 海外・国内石油企業の業績

臨時株主総会で社名変更、本社移転

 国際石油企業ロイヤル・ダッチ・シェルは、12月10日、本社のあるオランダハーグで臨時株主総会を開催、会社側が提案した組織簡素化、社名変更、株式の一元化を承認した。これにより同社はこれまでのオランダ・英国の二本社制をロンドンに一本化した。さらに租税支払地をロンドンとして株式を一元化、社名は単なる「シェル石油」に変更することが決まった。

 

 ロイヤル・ダッチ・シェルは1903年に英国のシェルとオランダのロイヤル・ダッチが提携して生まれた会社であり、石油業界で長きにわたり「セブン・シスターズ」の一員とされ、業界再編後の現在もExxonMobil、Chevron(以上米系)、bp、Shell(英蘭系)及びTotalEnergies(仏系)の五大国際石油企業(略称IOCs)の一角を形成、世界のエネルギー業界に君臨している。

 

シェルとロイヤル・ダッチは一方的な吸収合併ではなく提携であったため、法律上も経理上も別々の企業として今日まで複雑な統治形態を維持してきたのであるが、今回の総会決議で組織が簡素化された。と同時に新会社は英国企業であることを宣言、「女王陛下のシェル石油」に変身した訳である。

 

苦境のシェル:外部からの圧力と業績不振

 石油、天然ガスの開発生産及び販売を行う企業はシェルに限らず世間の厳しい目に晒されている。特に環境保護団体からCO2排出の元凶として厳しく追及され、シェルの場合はオランダの裁判所から2030年までにCO2を45%削減する命令が下され、現在係争中である[1]。先日のCOP26(第26回気候変動枠組条約国会議)でも炭化水素資源産業がやり玉にあげられた。

 

 さらに米国のモノ言う株主サードポイントからは会社分割を求められる始末である。シェルは石油・天然ガスの生産を続ける一方、米国のシェール・オイル権益を売却[2]、それを原資に脱炭素に向けた事業の再構築に取り組んでいる[3]。これが投資ファンドの目には事業戦略に一貫性を欠く、と映っているようだ。

 

 一方、企業内部に目を向けると今年7-9月期に4億ドルの欠損を出している。米系のExxonMobil及びChevronが60億ドル強の利益を計上していることに比べかなり見劣りする。昨年はコロナ禍の影響で石油企業各社はいずれも大きな欠損を出したが、今年になって油価が上昇、世界景気も回復傾向を示し上半期は全社が利益を計上した。しかし7-9月期でシェルはつまづいたのである[4]

 

英国とオランダのはざまで

 世界史をさかのぼると、かつてオランダと英国は植民地支配企業であるそれぞれの東インド会社により東南アジアで覇を競い合ってきた。そしてオランダはインドネシアで、また英国はミャンマー(旧ビルマ)、マレーシア(ボルネオのサバ/サラワク)などで石油開発を手掛けてきた。シェルとロイヤル・ダッチが1903年に提携した目的の一つは米国系のExxonMobil(旧スタンダードオイル)に対抗するためであった。オランダと英国は同じ立憲君主制国家であり、これまで両国の関係は極めて良好であった。

 

 そのような中でシェルがオランダを離れロンドンに本拠を移し、「女王陛下のシェル石油」に変わることをオランダ政府及び国民はどのように見ているのであろうか。オランダ政府にとっては英蘭協力の大きなシンボルが無くなると言う象徴的な意味と同時に税収入が減ると言う実質的なマイナスがある。オランダの国民から見れば、英国のEU脱退(BREXIT)が民間企業にまで及ぶ不愉快な現実を突きつけられたことになる。

 

 一方のシェル石油にとって今回の決定には3つの意味があると考えられる。一つ目はこれまでの複雑な二本社制を簡素化することで意思決定の迅速化を図ることができる。脱炭素社会の流れの中で石油企業は今苦しい対応を迫られている。英国に集約するか、オランダに集約するか? その結論は自ずから明らかであろう。

 

 第二に英国がEUを脱退したことにより、シェルは英国とオランダに二股をかけるデメリットが大きくなったことであろう。オランダはかつてヨーロッパの天然ガスの一大産地であったが今では生産はほぼゼロである。資源開発面でシェルはオランダに義理立てする必要はない。今後ともグローバル企業として競争に勝ち抜くためには会社が英国籍である方がメリットが大きいのは間違いない。

 

 三点目は環境保護運動であろう。最近開かれた国際会議COP26では場外で環境保護活動家が石油企業を糾弾した。その多くはオランダを含む北欧諸国の消費者達であった。英国にもそのような活動家は少なくないが、英国には北海油田がありその雇用吸収力も侮れない。また英国はシティの金融業を含め世界経済を広く俯瞰する気風に富んでいる。そのためグローバルなエネルギー企業に対する風当たりがヨーロッパ本土ほど強くない。

 

シェルとしては英国企業に変貌することがベストな選択なのであろう。ただしその選択が正しかったかどうかは今後のシェルの業績次第によって評価される。来年1月末あるいは2月初に開示される決算内容が最初の試金石であろう。

 

以上

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        前田 高行        〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

[1] Shell Press Release参照。

Shell response to Dutch court ruling in case brought by Milieudefensie’ on May 26, 2021&

Shell confirms decision to appeal court ruling in Netherlands climate case’ on Jul 20, 2021

[2] 同’Shell completes sale of its Permian business to ConocoPhillips’ on Dec 1, 2021

[3] 例えば’ Shell to build one of Europe’s biggest biofuels facilities’ on Sep 16, 2021等

[4] レポート「黒字の米系+仏系 3 社、赤字の英蘭系 2 社:2021 年 7-9 月期五大国際石油企業決算速報」参照。


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