佐々木健一 「Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男」読了
最近日本でも竜巻が発生したというニュースが聞かれるようになったが、そんなニュースによく出てくる、「フジタスケール」という竜巻の強さの基準を作った人がこの本の主人公だ。そのほか、ダウンバーストという、竜巻の中で発生する強力な下降気流を発見した。ダウンバーストはかつて原因不明の航空機の墜落事故を起こしていたのだが、その主人公、藤田哲也が発見したことで空の安全が格段に向上したことで、アメリカでは非常に有名な気象学者だそうだ。
1989年に気象界のノーベル賞と言われる、「フランス国立航空宇宙アカデミー金メダル」という賞を受け、アメリカでは、「Mr.トルネード」と呼ばれているそうだが、残念ながら、早くにアメリカに渡って研究していたことと、アメリカ国籍を取っていたことや竜巻の被害が少なかった日本ではそれほど有名ではないのだ。
著者はNHKのディレクターで、藤田哲也のドキュメンタリーを制作した。そして、その内容に新たなものを加えてこの本を書き下ろしたということだ。
かっこよくいうとひたむきな、そして下世話にいうと風変りなその生きざまをたくさんの関係者の証言をもとに浮き彫りにしている。
著者がインタビューした人たちの多くは、藤田のことを”天才”と表現している。そして天才とはえてしてわが道を行くものだ。藤田の場合は気象の急激な変化による航空機事故を一時も早く失くしたいという思いから学会への論文の発表の作法や研究室の運営では周囲との軋轢が少なからずあったらしい。
それでも、仲間との夕食のあとでも早くに座を抜けて研究に没頭するほどの姿勢と、数々の成果を上げるその姿に周りは圧倒されるのである。
実際の社会の中でも、それが成果を上げているかどうか、周りから悪口を言われているかどうかは別にして、とにかく自分の、よく言えばポリシー、悪く言えばただの思い上がりをぐいぐい表に出す人たちのほうが頭角を現しやすいということを今頃になって感じるのだ。
そういう人は多分、藤田のように自分のやっている仕事に確信をもっている。中身のあるなしにかかわわらず・・・。どちらにしても自分に自信のない人間は社会、会社のなかで埋もれていくしかないのだ。
そしてもうひとつ、朝ドラの「なつぞら」の出演者、草刈正雄演じる柴田泰樹の、
「我慢せず言いたいことを言う。言わないと生きてゆけなかった。言える相手があるということは恵まれている。」という台詞に会社の中での自分の居場所を確保するために自信を持たねばならないという理由を思い知らされる。藤田も晩年の講演で、「恥ずかしがらず、言いたいことを言いなさい」と言っていたそうだ。そうしないと自分の地保を築けない。しかし、それも自分の考えに自信が持てないとそうそう言えるものではない。
会社のなかで我が家のようにふるまえる人を羨ましいと思う。ぼくはどこに居てもいつも外様であるという感覚がぬぐい去れない。それは自分の自信のなさにつながると思うのだが、そこには泰樹さんのなつに語りかける言葉にその真実を思い知らされる。
「それはお前が搾った牛乳から生まれたものだ。よく味わえ。ちゃんと働けば、必ずいつか報われる日が来る。報われなければ、働き方が悪いか、働かせる者が悪いんだ。そんなとこはとっとと逃げ出しゃいいんだ。
だが一番悪いのは、人がなんとかしてくれると思って生きることじゃ。人は、人を当てにする者を助けたりはせん。逆に自分の力を信じて働いていれば、きっと誰かが助けてくれるものじゃ」
何か他人の意見に流されている、他人の言うことに唯々諾々としたがってしまう。そういう自信のなさがすべてに起因しているのである。
藤田は不屈の精神の持ち主で、何かをするときは全力で取り組む人だという評価だったそうだが、どうやったら今の、今までの仕事にそんな不屈の精神で臨めるかということがわからなかった。逃げ出す勇気もなかった。
しかし、どう考えても僕にはそういう生き方はできそうにもない。だから役満で上がることができずに和了となってしまったのである・・。
最近日本でも竜巻が発生したというニュースが聞かれるようになったが、そんなニュースによく出てくる、「フジタスケール」という竜巻の強さの基準を作った人がこの本の主人公だ。そのほか、ダウンバーストという、竜巻の中で発生する強力な下降気流を発見した。ダウンバーストはかつて原因不明の航空機の墜落事故を起こしていたのだが、その主人公、藤田哲也が発見したことで空の安全が格段に向上したことで、アメリカでは非常に有名な気象学者だそうだ。
1989年に気象界のノーベル賞と言われる、「フランス国立航空宇宙アカデミー金メダル」という賞を受け、アメリカでは、「Mr.トルネード」と呼ばれているそうだが、残念ながら、早くにアメリカに渡って研究していたことと、アメリカ国籍を取っていたことや竜巻の被害が少なかった日本ではそれほど有名ではないのだ。
著者はNHKのディレクターで、藤田哲也のドキュメンタリーを制作した。そして、その内容に新たなものを加えてこの本を書き下ろしたということだ。
かっこよくいうとひたむきな、そして下世話にいうと風変りなその生きざまをたくさんの関係者の証言をもとに浮き彫りにしている。
著者がインタビューした人たちの多くは、藤田のことを”天才”と表現している。そして天才とはえてしてわが道を行くものだ。藤田の場合は気象の急激な変化による航空機事故を一時も早く失くしたいという思いから学会への論文の発表の作法や研究室の運営では周囲との軋轢が少なからずあったらしい。
それでも、仲間との夕食のあとでも早くに座を抜けて研究に没頭するほどの姿勢と、数々の成果を上げるその姿に周りは圧倒されるのである。
実際の社会の中でも、それが成果を上げているかどうか、周りから悪口を言われているかどうかは別にして、とにかく自分の、よく言えばポリシー、悪く言えばただの思い上がりをぐいぐい表に出す人たちのほうが頭角を現しやすいということを今頃になって感じるのだ。
そういう人は多分、藤田のように自分のやっている仕事に確信をもっている。中身のあるなしにかかわわらず・・・。どちらにしても自分に自信のない人間は社会、会社のなかで埋もれていくしかないのだ。
そしてもうひとつ、朝ドラの「なつぞら」の出演者、草刈正雄演じる柴田泰樹の、
「我慢せず言いたいことを言う。言わないと生きてゆけなかった。言える相手があるということは恵まれている。」という台詞に会社の中での自分の居場所を確保するために自信を持たねばならないという理由を思い知らされる。藤田も晩年の講演で、「恥ずかしがらず、言いたいことを言いなさい」と言っていたそうだ。そうしないと自分の地保を築けない。しかし、それも自分の考えに自信が持てないとそうそう言えるものではない。
会社のなかで我が家のようにふるまえる人を羨ましいと思う。ぼくはどこに居てもいつも外様であるという感覚がぬぐい去れない。それは自分の自信のなさにつながると思うのだが、そこには泰樹さんのなつに語りかける言葉にその真実を思い知らされる。
「それはお前が搾った牛乳から生まれたものだ。よく味わえ。ちゃんと働けば、必ずいつか報われる日が来る。報われなければ、働き方が悪いか、働かせる者が悪いんだ。そんなとこはとっとと逃げ出しゃいいんだ。
だが一番悪いのは、人がなんとかしてくれると思って生きることじゃ。人は、人を当てにする者を助けたりはせん。逆に自分の力を信じて働いていれば、きっと誰かが助けてくれるものじゃ」
何か他人の意見に流されている、他人の言うことに唯々諾々としたがってしまう。そういう自信のなさがすべてに起因しているのである。
藤田は不屈の精神の持ち主で、何かをするときは全力で取り組む人だという評価だったそうだが、どうやったら今の、今までの仕事にそんな不屈の精神で臨めるかということがわからなかった。逃げ出す勇気もなかった。
しかし、どう考えても僕にはそういう生き方はできそうにもない。だから役満で上がることができずに和了となってしまったのである・・。