「こんな避難計画では命を守れない」という、住民の方々からの申し立てを受け、群や州政府が稼働を認めなかったことから、一度も稼働せぬままに、廃炉が決定した米国の原発。
日本では、米国のように、「緊急時の避難計画」は、原発の許認可条件になっていません。
だから、いい加減な避難計画をごり押しされて、それを仕方なく受け入れてしまっている。
どうしてこんなにも、米国市民と比べて、日本市民は、命と健康を粗末にしなければならないのでしょう?
伊方原発はすでに、再稼働されてしまいました。
この番組は、再稼働の一ヶ月前に放映されたものですので、ナレーターは何度も、こんな状況で再稼働しても良いのか?と問いかけています。
住民が避難できないからと、米国の原発は廃炉になりました。
一方日本は、避難を阻む狭い半島、何本もの活断層という、ショアハム原発より、はるかに条件の厳しい伊方原発が、つい先日、再稼働されてしまいました。
いったいこの違いはなんなんでしょう?
そもそも、避難計画が無いと動かせない産業なんて、有り得ません。
でも、一番腑に落ちないのは、原発の側に暮らしている住民の方々の、
「事故が起きたらもう死ぬしかない」
「放射性物質が出てこないうちに、逃げられるんだってよ」と言って笑っている、その態度です。
なぜこのような、自分の命や健康に関わることを、他人事のように考えてしまえるのか。
ここに、過酷な原発事故の後、稼働ゼロになっていた原発が、次々と再稼働をし始めてしまう日本社会の、
自分自身さえ真剣に守れないという問題が、くっきりと見えてきたように思えてなりません。
dailymotion版はこちら→http://goo.gl/QvXjdV
↓文字起こしはじめ
ナレーター:あおい洋一郎
ニューヨーク・マンハッタン島から橋を渡ると、その先には、大西洋に浮かぶロングアイランド。
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郊外型住宅地帯を抜け、車で1時間ほど走れば、そこに原発がある。
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ショアハム原発。
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完成はしたが、使われることなく廃炉となった。
なぜ?
その最大の理由が、
原発が過酷事故を起こした時の、避難計画だった。
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事故発生は、学校が授業中と想定。
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季節ごと、悪天候の場合など、避難時間は21のケースに分け、5分間位まで計算。
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緻密に見えるこの計画の、どこが問題だったのか。
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東西におよそ190キロ。
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細長い島の中程に、ショアハム原発はある。
原発より先に住む人たちの、命が守れない。
これが、廃炉になった、決定的な理由だった。
立地の状況は、まもなく再稼働する、愛媛県の伊方原発と似ている。
伊方原発も、佐田岬半島の付け根から、およそ5キロに建てられている。
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原発より先に住む住民は、5千人。
彼らは、原発で過酷事故が起きた時、計画通り、無事避難できるのだろうか。
住民避難のために、県が手配するバス。
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だが、 県がバス組合と交わした覚書によれば、運転手が累積1ミリシーベルト以上被爆する場合は、バスを出さない。
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肝心な時に、バスは来るのか?
4月の熊本地震。
震度7が、2度連続して起きた。
上下方向の加速度が大きく、長周期の地震動も発生した。
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新しい規制基準は、こうした地震に対応できるのか?
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原子力規制委員会・田中俊一委員長:
私どもは、科学技術としての判断基準に基づいて、その、停止するか稼働に値するか、決めているわけですね。
別に、安全上の問題が起こるというわけではない。
伊方原発の建設当時、中央構造線は、活断層とみなされなかった。
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長さ360キロに及ぶ、巨大な活断層帯を、6キロ沖に抱える伊方原発が、まもなく再稼働しようとしている。
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地元住民の女性:
原発に何か起きたらもう、死ぬるしかない。
逃げ道がないからここに、ね。
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避難計画で原発やめました
違いは何だ!?伊方とショアハム
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愛媛県伊方原発3号機が、来月にも再稼働される。
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4月に起きた熊本地震では、地震の常識を揺るがす現象が発生した。
それらは、伊方原発再稼働に影響しないのだろうか?
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そのひとつめが、震度7が立て続けに、2度起きたこと。
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耐震建築の建物の多くが、一度目の震度7は耐えた。
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しかし、二度目の震度7で、倒壊した。
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原発は大丈夫なのか。
田中委員長:
一般の家屋がこう、何回か繰り返して、2回目の地震で倒壊したっていうのは、結局もう1回目で、塑性変形元の形に戻らない変形)弾性(?)領域を超えているっていうことなんですよね。
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原子力施設については、そういう設計はしてませんので。
原発の耐震基準は、一般の建築基準よりはるかに厳しいが、
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配管等が1度目の地震で塑性変形し、二度目で破壊するのでは、と懸念する専門家もいる。
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ふたつめが、長周期地震動だ。
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熊本地震で観測された211カインは、観測史上最大で、川内原発の想定を超えた。
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複雑な振動が、建屋や配管に、どんな影響を与えるのか。
みっつめが、縦方向の揺れだ。
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熊本地震では、上下に強い揺れを観測。
コンクリートの建物は、上下方向の揺れに弱い。
熊本地震では、地震に関する新たな知見も得られつつある中、規制委員会は、これらの点をどう見ているのか。
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田中委員長:
ーー的に、安全サイドで評価をするということを貫いてますので、今変えなきゃいけないという知見は、何もないと思います。
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今回の熊本地震は、別府・熊本破砕帯と呼ばれる、断層に沿って起きている。
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その延長線上、長さ360キロに及ぶ中央構造線に沿って、東にたどれば、再稼働を控える、愛媛県の伊方原発がある。
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この、中央構造線。
伊方原発が建設された1970年代初めには、活断層とされていなかった。
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この巨大活断層は、1995年の阪神大震災が起きるまでは、動かないものとして、審査の対象とさえなっていなかった。
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現在は、伊方原発の沖に4本、活断層が存在することが明らかとなっている。
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発見したのは、長年、津波堆積物から過去の地震を調べてきた、高知大学の岡村教授だ。
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伊予灘を、丹念に音波探査し、活断層を発見したのだと言う。
高知大学(地震地質学)・岡田眞特任教授(津波堆積物から過去の地震を調査):
1番近いとこ、ここにあるんですけど、1本ですね、2本ですね、ここもここも大きい、ここにちょっと小さいのがあって、それで4カ所。
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質問:
伊方原発を建てて、1号機、2号機、3号機と建てていく時代というものは、安全審査みたいな中に、中央構造線…
岡田特任教授:
ないです、そういうものは。
それが活断層で、そこが地震を起こすという前提で、1号機も、2号機も、3号機も、設計されてないんですよ。
大きな地震が無い、という前提に立っていたことから、伊方原発は、他の原発と比較して、耐震設計が甘いのではないか。
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新しい基準に合わせるには、巨額な費用がかかることから、1号機はすでに、廃炉が決まった。
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岡村教授は、活断層から原発までが6キロという、距離の近さも問題だと言う。
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岡田特任教授:
伊方の場合は、わずか6キロから8キロにありますので、(地震が)来たってことが分かるのが、地震発生1秒後なんですよ。
検知して、1番揺れが大きくなるまで、わずか1秒しかないですよ。
地震で、原子炉は、直ちに自動停止を始める。
運転員は、即座に対応できるだろうか?
岡田特任教授:
地震学っていうのは、こういったことについては、非常に手に取るようにわかる。
でも、明日起こることが分からないんですよね。
それは、5年前にも経験した通りです。
東北でも経験した。
今後、まあ、10年とか15年ぐらいは気をつけないと、別府から伊予灘にかけてのところが動かないと言う事は、全く言えませんね。
我々の、わずか10万円の予算でやった調査で、こんなに巨大な断層があるということがわかってきた。
なのに、四国電力は、なぜこんな簡単なことがわからないのか。
で、こういう会社が、安全だ安全だということを言われても、われわれはそれに対して、全く信用ができないと。
伊方2号機建設に向けて、四国電力で安全審査に関わった関係者も、中央構造線について、こう指摘する。
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松野元氏(四国電力で伊方2号機の申請係・原子力防災の専門家):
技術者として考えると、伊方原発は、やっぱり立地上が問題で、
かつては中央構造線は、活断層と言われてなかったから、あそこに立地したんだけど、
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今は活断層と言われてますから、今から立地を考えれば、伊方ではありえないんです。
中央構造線に、規制基準を当てはめていいよって言ってます。
でも、その基準は、日本の他の断層で研究した結果で、それを世界一の中央構造線に当てはめて、いいよって言うので良いのか、私は疑問に思いますね。
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で、避難計画が不合格になった例があるんですよね。
アメリカのニューヨーク州の、ショアハムっていう原子力発電所なんですが…。
マンハッタンから車で1時間、ロングアイランド東部・サフォーク群は、ニューヨークの避暑地でもある。
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東西に細長い島の真ん中に、ショアハム原発は建設された。
なぜショアハム原発は、1度も使われずに、廃炉となったのか。
その道筋をたどると。
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ストーニーブルック大学図書館の係員:
ここがショアハム原発関係のセクションです。
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地元図書館に、ショアハム原発が、放射能を出す事故を起こすことを想定した、分厚い避難計画書があった。
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この計画書は、地元自治体が、命を守れる計画は作れない、と突っぱねたため、電力会社が作成したものだ。
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推定避難時間のページを見てみると、ケース14、16、18、20は、夏で、天気の悪さの度合いで、
ケース13、15、17、19は、冬の場合で、それぞれ2マイル、5マイル、10マイルの距離に住む人が、
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50%、90% 100%避難するのに、何時間何分かかるか、事細かく計算されている。
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ロングアイランドは、近くに活断層がない。
なのになぜ、避難計画が問題となったのか?
ピーター・マニスキャルコさん:
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これが、ショアハム原子力発電所です。
福島福島原発と、同じ形式の原発です。
私たちが幸運な事は、世界で初めて、運転開始直前の原発を、完璧にストップさせたことです。
完成していた原発を、廃炉させることができたのです。
質問:
避難計画の、何がいけなかったのでしょうか?
ピーターさん(サフォーク群住民):
ハハハ、ここは島です。
日本も島でしょう?
どこにも逃げられません。
ウィークデーは人口密度も高く、この島の主だった道路は、渋滞し動きません。
逃げ道はありません。
シド・ベイルさん(サフォーク群住民):
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ロングアイランドの南北は、とても狭くて、北海岸から南海岸まで、30キロほどしかありません。
だから、実効性のある避難計画を作る事は難しく、ほとんど不可能でした。
アメリカの原子力規制委員会のヤツコ元委員長にも、ショアハム原発の避難計画について聞いた。
ヤツコ元委員長:
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心配していたのは、地理的に、緊急時に逃すことができるか、でした。
長い島の端っこにいたら、逃げ道は少ないです。
西に逃げて、ニューヨークに向かっていくしか、原発の東側の住人を、逃す方法はありません。
地元自治体は、安全に避難するのは無理だ、と言いました。
1983年、サフォーク群の議会は、避難計画を受け入れないことを決議した。
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どのような放射能緊急対応計画も、住民の生命、健康、安全を守ることはできないので、
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サフォーク群により、採用されることも、実行されることもない。
最終的に、州政府と120万人の住民が、電力会社の損失を、向こう30年負担することで、廃炉という決着を勝ち取ったのだ。
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質問:
これはなんですか?
ベイルさん:
これは、電力会社の請求書です。
この下線を引いているのが、サフォーク郡不動産税調整です。
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大体、電気代の3%です。
ロングアイランドの半分、120万人が、2026年頃まで支払う予定です。
払い終えたら、みんなでお祝いします。
ここで、押さえておきたいポイントがある。
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細長い島とはいえ、広大な大地が広がるアメリカ。
ショアハム原発から避難道路までは、16キロ離れている。
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一方、伊方原発。
縮尺を合わせると、佐田岬半島の狭さがわかる。
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避難路から伊方原発までは、目と鼻の先。
佐田岬半島の最も狭いところは、800メートル。
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こちらが瀬戸内海。
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そして、避難道となる国道を挟んで、こちらが宇和海。
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両側に海が見えるほど狭い。
主たる避難路である国道沿も含め、半島は、至る所が、土砂災害危険箇所に指定されるほどの、急峻な地形だ。
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伊方原発より先に住む5,000人は、原発事故が起きた時、逃げられるのか。
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昨年、住民参加の避難訓練が行われた。
避難訓練のシナリオはこうだ。
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原発の西で、道路が寸断された。
だが、津波は来ないので、港は使える。
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寸断箇所より港側の住民は、フェリーや海上保安部の艦船などで、避難する。
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ただ、原発の過酷事故は、複合災害で起こる可能性が高い。
南海トラフ地震での津波予想は、半島の南側で最大21メートル、原発側は2.45メートルだ。
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港から、船で避難することになっている地区の住民は、どう見ているのか。
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住民の女性:
津波が来て原発きたらもう、死ぬるしかないですよね。
原発向いてあんた、逃げるわけにいかないし。
一方、寸断された箇所より、東に住む住民は、港へ向かえない。
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県が手配するバスに乗って、東へ向かう。
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県庁所在地の、松山市方面に避難する、というのがシナリオだ。
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避難するには、原発のすぐ近くを通らなければならない、地区の住民は?
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住民の男性:
放射能がすぐ(?)出るて言われてるから、何も心配してないけど。
別の住民男性:
我々が行くときには、まだ放射能は出てないという仮定、想定。
想定では、放射能の放出前に避難するから大丈夫だ、と言う。
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だが、福島第一原発の事故の時、翌朝になっても、事故の発生を知らない住民が多くいた。
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思い出してほしいのは、アメリカショアハム原発では、避難道路まで16キロ。
ここ伊方では、原子炉までわずか、1キロの距離なのだ。
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福島では、水素爆発で、事態が急変した。
そうなれば、バスが高濃度の放射能に巻き込まれる恐れが高い。
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福島事故の後は、ほとんどの道が、長時間大渋滞した。
伊方の場合はどうか?
地元警察官:
まぁ道がないですからね、渋滞が起こると思いますんで。
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訓練後の会見で、国の説明は?
山本哲也官房審議官(原子力防災担当):
1日以上の長い渋滞になるんではなくて、まぁ、数時間程度の渋滞になるかと、いうふうに考えております。
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質問:
原発に1番近いところで、どのぐらいの距離があるか、ご存知でしょうか?
山本官房審議官:
あの、正確な距離は、承知しておりませんが、数キロ、あるいはもう少し短いかもしれません。
質問:
3号機までで、1キロです。
放射性物質が漏れているときに、国道で、渋滞がずっと動かない。
どう思われますか?
山本官房審議官:
炉心が損傷し、格納容器から放射性物質が漏洩するには、まぁ一定の時間的、余裕という言い方はあれですけども、そういう経過を辿るものだと考えております。
もう一つの課題が、交通手段の確保だ。
半島の先に住む住民を救出するため、バスやフェリーなどを、十分に確保できるか。
交通問題の専門家、上岡氏は?
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質問:
バスをどのぐらい動員できるか、という県の試算なんですけども。
交通権学会・上岡直見会長:
愛媛県の資料にありますのは、バスの在籍台数ですから、その全てが都合よく待機しているわけではありませんから、
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路線バスだったら、そのダイヤに従ってルートを走ってますし、観光バスだったら、どこか遠くに行ってるかもしれないし、
しかもその運転手さんも、どうやってその手配できるのかと、いうような問題がありますから。
運転手は確保できるのか。
県は今年4月、バス組合等と、原子力災害時の救助協力に関する、覚書を交わした。
だが、運転手が、累積1ミリシーベルト以上被曝する場合は、派遣しないことになっている。
福島のような事態が起きれば、
バスは来ない
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そうなったら、誰がどうやって助けるのか。
福島では、メルトダウンが始まるまで、およそ2時間。
事故は、さらに短い時間で進展することも…。
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しかし、県の避難計画には、最悪のケースで、誰がどう住民を救助するのかが、どこにも書かれていない。
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例えば、複合災害が起き、炉心溶融が急速に進む中、津波で港が使えず、土砂災害で半島の付け根が通行止めになれば、住民の大半が、半島に缶詰状態になる。
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最悪の事態の想定について、愛媛県知事に聞いた。
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中村時広・愛媛県知事:
完全に缶詰っていう事は、そこまでの事は、僕は考えてないんですけどね。
避難計画も大事ですけど、さらに同じく大事なのが、暴走を食い止める。
要は、避難する必要のない状況を作り出すっていうことが、大事だと思ってますんで
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倉澤治雄・ジャーナリスト:
県で作られている、避難計画を含んだ地域防災計画っていうのは、機能するというふうにお考えでしょうか?
中村知事:
まあ基本的に、ある程度の事はしっかりできると思ってますけれども、じゃあそれで100%なのかと言われたら、それはわからない、としか言いようがないですね。
100%かはわからないが、稼働する日本。
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住民が自腹を切ってでも、廃炉にするアメリカ。
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ヤツコNRC元委員長:
緊急避難計画について、最も大事なのは、立地自治体だと思います。
自治体が、避難計画を、自信を持って実行できないと思えば、それは、原発を閉鎖しなければいけないことを意味するからです。
安倍政権の下、粛々と進む再稼働。
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安倍首相(第5回原子力防災会議において):
原発についてはなによりも、安全性を最優先させます。
このような政策を、推進する責任は、政府にあります。
しかし、山積する課題は解決されないまま、再稼働への道を、私たちは進んでいる。
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アメリカでは、実行可能な避難計画が、認定(いんてん?)の公的条件となっているが、日本では違う。
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避難計画が不十分なまま、再稼働していいのか?
福島第一原発事故の原因が、十分に解明されていない中作られた、新しい規制基準。
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抜け落ちているところはないのか?
松野元氏:
事故原因がわからないのに、安心政策するんじゃなくって、とにかく、事故原因を特定しない限り、原子力の将来はない、と私は思っています。
原発事故の確率は、百万年に一回以下が目標だ。
しかし、絶対に起きないと言われていた過酷事故が、50年間に、世界で既に、3回起きている事実は重い。
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ヤツコ氏:
私が言えるのは、原発を安全にするしかないのです。
炉心溶融が起こる事故を、決して起こさないことです。
しかし、アメリカの原子力発電所で、その定義に合う原発はありません。
最後に、もう一度思い出してほしい。
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住民が避難できないと、アメリカの原発は廃炉になった。
一方日本は、避難を阻む狭い半島、何本もの活断層。
ショアハム原発より、はるかに条件の厳しい伊方原発が、来月にも再稼働される。
いったい、この違いはなんだ?
福島には、あの日、季節風と逆の風が、吹いていた。
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そもそも、避難計画がないと動かせない産業って、おかしくないですか?
日本では、米国のように、「緊急時の避難計画」は、原発の許認可条件になっていません。
だから、いい加減な避難計画をごり押しされて、それを仕方なく受け入れてしまっている。
どうしてこんなにも、米国市民と比べて、日本市民は、命と健康を粗末にしなければならないのでしょう?
伊方原発はすでに、再稼働されてしまいました。
この番組は、再稼働の一ヶ月前に放映されたものですので、ナレーターは何度も、こんな状況で再稼働しても良いのか?と問いかけています。
住民が避難できないからと、米国の原発は廃炉になりました。
一方日本は、避難を阻む狭い半島、何本もの活断層という、ショアハム原発より、はるかに条件の厳しい伊方原発が、つい先日、再稼働されてしまいました。
いったいこの違いはなんなんでしょう?
そもそも、避難計画が無いと動かせない産業なんて、有り得ません。
でも、一番腑に落ちないのは、原発の側に暮らしている住民の方々の、
「事故が起きたらもう死ぬしかない」
「放射性物質が出てこないうちに、逃げられるんだってよ」と言って笑っている、その態度です。
なぜこのような、自分の命や健康に関わることを、他人事のように考えてしまえるのか。
ここに、過酷な原発事故の後、稼働ゼロになっていた原発が、次々と再稼働をし始めてしまう日本社会の、
自分自身さえ真剣に守れないという問題が、くっきりと見えてきたように思えてなりません。
dailymotion版はこちら→http://goo.gl/QvXjdV
↓文字起こしはじめ
ナレーター:あおい洋一郎
ニューヨーク・マンハッタン島から橋を渡ると、その先には、大西洋に浮かぶロングアイランド。
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郊外型住宅地帯を抜け、車で1時間ほど走れば、そこに原発がある。
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ショアハム原発。
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完成はしたが、使われることなく廃炉となった。
なぜ?
その最大の理由が、
原発が過酷事故を起こした時の、避難計画だった。
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事故発生は、学校が授業中と想定。
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季節ごと、悪天候の場合など、避難時間は21のケースに分け、5分間位まで計算。
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緻密に見えるこの計画の、どこが問題だったのか。
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東西におよそ190キロ。
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細長い島の中程に、ショアハム原発はある。
原発より先に住む人たちの、命が守れない。
これが、廃炉になった、決定的な理由だった。
立地の状況は、まもなく再稼働する、愛媛県の伊方原発と似ている。
伊方原発も、佐田岬半島の付け根から、およそ5キロに建てられている。
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原発より先に住む住民は、5千人。
彼らは、原発で過酷事故が起きた時、計画通り、無事避難できるのだろうか。
住民避難のために、県が手配するバス。
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だが、 県がバス組合と交わした覚書によれば、運転手が累積1ミリシーベルト以上被爆する場合は、バスを出さない。
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肝心な時に、バスは来るのか?
4月の熊本地震。
震度7が、2度連続して起きた。
上下方向の加速度が大きく、長周期の地震動も発生した。
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新しい規制基準は、こうした地震に対応できるのか?
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原子力規制委員会・田中俊一委員長:
私どもは、科学技術としての判断基準に基づいて、その、停止するか稼働に値するか、決めているわけですね。
別に、安全上の問題が起こるというわけではない。
伊方原発の建設当時、中央構造線は、活断層とみなされなかった。
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長さ360キロに及ぶ、巨大な活断層帯を、6キロ沖に抱える伊方原発が、まもなく再稼働しようとしている。
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地元住民の女性:
原発に何か起きたらもう、死ぬるしかない。
逃げ道がないからここに、ね。
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避難計画で原発やめました
違いは何だ!?伊方とショアハム
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愛媛県伊方原発3号機が、来月にも再稼働される。
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4月に起きた熊本地震では、地震の常識を揺るがす現象が発生した。
それらは、伊方原発再稼働に影響しないのだろうか?
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そのひとつめが、震度7が立て続けに、2度起きたこと。
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耐震建築の建物の多くが、一度目の震度7は耐えた。
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しかし、二度目の震度7で、倒壊した。
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原発は大丈夫なのか。
田中委員長:
一般の家屋がこう、何回か繰り返して、2回目の地震で倒壊したっていうのは、結局もう1回目で、塑性変形元の形に戻らない変形)弾性(?)領域を超えているっていうことなんですよね。
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原子力施設については、そういう設計はしてませんので。
原発の耐震基準は、一般の建築基準よりはるかに厳しいが、
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配管等が1度目の地震で塑性変形し、二度目で破壊するのでは、と懸念する専門家もいる。
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ふたつめが、長周期地震動だ。
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熊本地震で観測された211カインは、観測史上最大で、川内原発の想定を超えた。
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複雑な振動が、建屋や配管に、どんな影響を与えるのか。
みっつめが、縦方向の揺れだ。
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熊本地震では、上下に強い揺れを観測。
コンクリートの建物は、上下方向の揺れに弱い。
熊本地震では、地震に関する新たな知見も得られつつある中、規制委員会は、これらの点をどう見ているのか。
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田中委員長:
ーー的に、安全サイドで評価をするということを貫いてますので、今変えなきゃいけないという知見は、何もないと思います。
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今回の熊本地震は、別府・熊本破砕帯と呼ばれる、断層に沿って起きている。
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その延長線上、長さ360キロに及ぶ中央構造線に沿って、東にたどれば、再稼働を控える、愛媛県の伊方原発がある。
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この、中央構造線。
伊方原発が建設された1970年代初めには、活断層とされていなかった。
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この巨大活断層は、1995年の阪神大震災が起きるまでは、動かないものとして、審査の対象とさえなっていなかった。
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現在は、伊方原発の沖に4本、活断層が存在することが明らかとなっている。
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発見したのは、長年、津波堆積物から過去の地震を調べてきた、高知大学の岡村教授だ。
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伊予灘を、丹念に音波探査し、活断層を発見したのだと言う。
高知大学(地震地質学)・岡田眞特任教授(津波堆積物から過去の地震を調査):
1番近いとこ、ここにあるんですけど、1本ですね、2本ですね、ここもここも大きい、ここにちょっと小さいのがあって、それで4カ所。
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質問:
伊方原発を建てて、1号機、2号機、3号機と建てていく時代というものは、安全審査みたいな中に、中央構造線…
岡田特任教授:
ないです、そういうものは。
それが活断層で、そこが地震を起こすという前提で、1号機も、2号機も、3号機も、設計されてないんですよ。
大きな地震が無い、という前提に立っていたことから、伊方原発は、他の原発と比較して、耐震設計が甘いのではないか。
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新しい基準に合わせるには、巨額な費用がかかることから、1号機はすでに、廃炉が決まった。
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岡村教授は、活断層から原発までが6キロという、距離の近さも問題だと言う。
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岡田特任教授:
伊方の場合は、わずか6キロから8キロにありますので、(地震が)来たってことが分かるのが、地震発生1秒後なんですよ。
検知して、1番揺れが大きくなるまで、わずか1秒しかないですよ。
地震で、原子炉は、直ちに自動停止を始める。
運転員は、即座に対応できるだろうか?
岡田特任教授:
地震学っていうのは、こういったことについては、非常に手に取るようにわかる。
でも、明日起こることが分からないんですよね。
それは、5年前にも経験した通りです。
東北でも経験した。
今後、まあ、10年とか15年ぐらいは気をつけないと、別府から伊予灘にかけてのところが動かないと言う事は、全く言えませんね。
我々の、わずか10万円の予算でやった調査で、こんなに巨大な断層があるということがわかってきた。
なのに、四国電力は、なぜこんな簡単なことがわからないのか。
で、こういう会社が、安全だ安全だということを言われても、われわれはそれに対して、全く信用ができないと。
伊方2号機建設に向けて、四国電力で安全審査に関わった関係者も、中央構造線について、こう指摘する。
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松野元氏(四国電力で伊方2号機の申請係・原子力防災の専門家):
技術者として考えると、伊方原発は、やっぱり立地上が問題で、
かつては中央構造線は、活断層と言われてなかったから、あそこに立地したんだけど、
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今は活断層と言われてますから、今から立地を考えれば、伊方ではありえないんです。
中央構造線に、規制基準を当てはめていいよって言ってます。
でも、その基準は、日本の他の断層で研究した結果で、それを世界一の中央構造線に当てはめて、いいよって言うので良いのか、私は疑問に思いますね。
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で、避難計画が不合格になった例があるんですよね。
アメリカのニューヨーク州の、ショアハムっていう原子力発電所なんですが…。
マンハッタンから車で1時間、ロングアイランド東部・サフォーク群は、ニューヨークの避暑地でもある。
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東西に細長い島の真ん中に、ショアハム原発は建設された。
なぜショアハム原発は、1度も使われずに、廃炉となったのか。
その道筋をたどると。
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ストーニーブルック大学図書館の係員:
ここがショアハム原発関係のセクションです。
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地元図書館に、ショアハム原発が、放射能を出す事故を起こすことを想定した、分厚い避難計画書があった。
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この計画書は、地元自治体が、命を守れる計画は作れない、と突っぱねたため、電力会社が作成したものだ。
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推定避難時間のページを見てみると、ケース14、16、18、20は、夏で、天気の悪さの度合いで、
ケース13、15、17、19は、冬の場合で、それぞれ2マイル、5マイル、10マイルの距離に住む人が、
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50%、90% 100%避難するのに、何時間何分かかるか、事細かく計算されている。
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ロングアイランドは、近くに活断層がない。
なのになぜ、避難計画が問題となったのか?
ピーター・マニスキャルコさん:
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これが、ショアハム原子力発電所です。
福島福島原発と、同じ形式の原発です。
私たちが幸運な事は、世界で初めて、運転開始直前の原発を、完璧にストップさせたことです。
完成していた原発を、廃炉させることができたのです。
質問:
避難計画の、何がいけなかったのでしょうか?
ピーターさん(サフォーク群住民):
ハハハ、ここは島です。
日本も島でしょう?
どこにも逃げられません。
ウィークデーは人口密度も高く、この島の主だった道路は、渋滞し動きません。
逃げ道はありません。
シド・ベイルさん(サフォーク群住民):
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ロングアイランドの南北は、とても狭くて、北海岸から南海岸まで、30キロほどしかありません。
だから、実効性のある避難計画を作る事は難しく、ほとんど不可能でした。
アメリカの原子力規制委員会のヤツコ元委員長にも、ショアハム原発の避難計画について聞いた。
ヤツコ元委員長:
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心配していたのは、地理的に、緊急時に逃すことができるか、でした。
長い島の端っこにいたら、逃げ道は少ないです。
西に逃げて、ニューヨークに向かっていくしか、原発の東側の住人を、逃す方法はありません。
地元自治体は、安全に避難するのは無理だ、と言いました。
1983年、サフォーク群の議会は、避難計画を受け入れないことを決議した。
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どのような放射能緊急対応計画も、住民の生命、健康、安全を守ることはできないので、
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サフォーク群により、採用されることも、実行されることもない。
最終的に、州政府と120万人の住民が、電力会社の損失を、向こう30年負担することで、廃炉という決着を勝ち取ったのだ。
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質問:
これはなんですか?
ベイルさん:
これは、電力会社の請求書です。
この下線を引いているのが、サフォーク郡不動産税調整です。
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大体、電気代の3%です。
ロングアイランドの半分、120万人が、2026年頃まで支払う予定です。
払い終えたら、みんなでお祝いします。
ここで、押さえておきたいポイントがある。
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細長い島とはいえ、広大な大地が広がるアメリカ。
ショアハム原発から避難道路までは、16キロ離れている。
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一方、伊方原発。
縮尺を合わせると、佐田岬半島の狭さがわかる。
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避難路から伊方原発までは、目と鼻の先。
佐田岬半島の最も狭いところは、800メートル。
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こちらが瀬戸内海。
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そして、避難道となる国道を挟んで、こちらが宇和海。
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両側に海が見えるほど狭い。
主たる避難路である国道沿も含め、半島は、至る所が、土砂災害危険箇所に指定されるほどの、急峻な地形だ。
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伊方原発より先に住む5,000人は、原発事故が起きた時、逃げられるのか。
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昨年、住民参加の避難訓練が行われた。
避難訓練のシナリオはこうだ。
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原発の西で、道路が寸断された。
だが、津波は来ないので、港は使える。
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寸断箇所より港側の住民は、フェリーや海上保安部の艦船などで、避難する。
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ただ、原発の過酷事故は、複合災害で起こる可能性が高い。
南海トラフ地震での津波予想は、半島の南側で最大21メートル、原発側は2.45メートルだ。
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港から、船で避難することになっている地区の住民は、どう見ているのか。
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住民の女性:
津波が来て原発きたらもう、死ぬるしかないですよね。
原発向いてあんた、逃げるわけにいかないし。
一方、寸断された箇所より、東に住む住民は、港へ向かえない。
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県が手配するバスに乗って、東へ向かう。
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県庁所在地の、松山市方面に避難する、というのがシナリオだ。
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避難するには、原発のすぐ近くを通らなければならない、地区の住民は?
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住民の男性:
放射能がすぐ(?)出るて言われてるから、何も心配してないけど。
別の住民男性:
我々が行くときには、まだ放射能は出てないという仮定、想定。
想定では、放射能の放出前に避難するから大丈夫だ、と言う。
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だが、福島第一原発の事故の時、翌朝になっても、事故の発生を知らない住民が多くいた。
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思い出してほしいのは、アメリカショアハム原発では、避難道路まで16キロ。
ここ伊方では、原子炉までわずか、1キロの距離なのだ。
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福島では、水素爆発で、事態が急変した。
そうなれば、バスが高濃度の放射能に巻き込まれる恐れが高い。
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福島事故の後は、ほとんどの道が、長時間大渋滞した。
伊方の場合はどうか?
地元警察官:
まぁ道がないですからね、渋滞が起こると思いますんで。
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訓練後の会見で、国の説明は?
山本哲也官房審議官(原子力防災担当):
1日以上の長い渋滞になるんではなくて、まぁ、数時間程度の渋滞になるかと、いうふうに考えております。
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質問:
原発に1番近いところで、どのぐらいの距離があるか、ご存知でしょうか?
山本官房審議官:
あの、正確な距離は、承知しておりませんが、数キロ、あるいはもう少し短いかもしれません。
質問:
3号機までで、1キロです。
放射性物質が漏れているときに、国道で、渋滞がずっと動かない。
どう思われますか?
山本官房審議官:
炉心が損傷し、格納容器から放射性物質が漏洩するには、まぁ一定の時間的、余裕という言い方はあれですけども、そういう経過を辿るものだと考えております。
もう一つの課題が、交通手段の確保だ。
半島の先に住む住民を救出するため、バスやフェリーなどを、十分に確保できるか。
交通問題の専門家、上岡氏は?
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質問:
バスをどのぐらい動員できるか、という県の試算なんですけども。
交通権学会・上岡直見会長:
愛媛県の資料にありますのは、バスの在籍台数ですから、その全てが都合よく待機しているわけではありませんから、
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路線バスだったら、そのダイヤに従ってルートを走ってますし、観光バスだったら、どこか遠くに行ってるかもしれないし、
しかもその運転手さんも、どうやってその手配できるのかと、いうような問題がありますから。
運転手は確保できるのか。
県は今年4月、バス組合等と、原子力災害時の救助協力に関する、覚書を交わした。
だが、運転手が、累積1ミリシーベルト以上被曝する場合は、派遣しないことになっている。
福島のような事態が起きれば、
バスは来ない
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そうなったら、誰がどうやって助けるのか。
福島では、メルトダウンが始まるまで、およそ2時間。
事故は、さらに短い時間で進展することも…。
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しかし、県の避難計画には、最悪のケースで、誰がどう住民を救助するのかが、どこにも書かれていない。
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例えば、複合災害が起き、炉心溶融が急速に進む中、津波で港が使えず、土砂災害で半島の付け根が通行止めになれば、住民の大半が、半島に缶詰状態になる。
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最悪の事態の想定について、愛媛県知事に聞いた。
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中村時広・愛媛県知事:
完全に缶詰っていう事は、そこまでの事は、僕は考えてないんですけどね。
避難計画も大事ですけど、さらに同じく大事なのが、暴走を食い止める。
要は、避難する必要のない状況を作り出すっていうことが、大事だと思ってますんで
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倉澤治雄・ジャーナリスト:
県で作られている、避難計画を含んだ地域防災計画っていうのは、機能するというふうにお考えでしょうか?
中村知事:
まあ基本的に、ある程度の事はしっかりできると思ってますけれども、じゃあそれで100%なのかと言われたら、それはわからない、としか言いようがないですね。
100%かはわからないが、稼働する日本。
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住民が自腹を切ってでも、廃炉にするアメリカ。
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ヤツコNRC元委員長:
緊急避難計画について、最も大事なのは、立地自治体だと思います。
自治体が、避難計画を、自信を持って実行できないと思えば、それは、原発を閉鎖しなければいけないことを意味するからです。
安倍政権の下、粛々と進む再稼働。
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安倍首相(第5回原子力防災会議において):
原発についてはなによりも、安全性を最優先させます。
このような政策を、推進する責任は、政府にあります。
しかし、山積する課題は解決されないまま、再稼働への道を、私たちは進んでいる。
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アメリカでは、実行可能な避難計画が、認定(いんてん?)の公的条件となっているが、日本では違う。
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避難計画が不十分なまま、再稼働していいのか?
福島第一原発事故の原因が、十分に解明されていない中作られた、新しい規制基準。
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抜け落ちているところはないのか?
松野元氏:
事故原因がわからないのに、安心政策するんじゃなくって、とにかく、事故原因を特定しない限り、原子力の将来はない、と私は思っています。
原発事故の確率は、百万年に一回以下が目標だ。
しかし、絶対に起きないと言われていた過酷事故が、50年間に、世界で既に、3回起きている事実は重い。
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ヤツコ氏:
私が言えるのは、原発を安全にするしかないのです。
炉心溶融が起こる事故を、決して起こさないことです。
しかし、アメリカの原子力発電所で、その定義に合う原発はありません。
最後に、もう一度思い出してほしい。
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住民が避難できないと、アメリカの原発は廃炉になった。
一方日本は、避難を阻む狭い半島、何本もの活断層。
ショアハム原発より、はるかに条件の厳しい伊方原発が、来月にも再稼働される。
いったい、この違いはなんだ?
福島には、あの日、季節風と逆の風が、吹いていた。
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そもそも、避難計画がないと動かせない産業って、おかしくないですか?