今年90歳になる母の誕生日を、特別な形でお祝いしたい。
ただそれだけがわたしの望みでした。
母は温泉に浸かるのが好きだったけれど、体がふらついて思うように歩けなくなってからは、従姉妹のKちゃんとわたしが両側から支えて入ったりしていました。
ちなみにKちゃんは母方の従姉妹で、遠くに行ってしまったわたしの代わりにあれこれと母たちを気遣って、一緒に3人でいろんなところに旅行に行っては、何かと不自由な後期高齢者たちの面倒を見てくれている人です。
だから母にとっては娘同然なんですが、ここ最近は、そんなKちゃんやわたしであっても、世話になってまで入りたくないと言って、温泉に行っても大浴場はもちろんのこと、部屋のお風呂にも家と同じような手すりが無いからと入らずに、一人でポツンと部屋で過ごすようになっていました。
そんな母を温泉の湯にゆっくり浸からせてあげられないだろうか。
ということで、客室のお風呂に温泉が出てくる宿を探しました。
ただし、母の家から車で1時間以内のところにある宿でないと、運転する義父に負担がかかるので、見つけるのはなかなか大変でした。
やっと見つけたのが榊原温泉の湯元館でした。
しかもその温泉は1500年も前から湯ごりの地として存在する日本三名泉!
清少納言の枕草子にも詠われた「七栗の湯」!
バリアフリーで手すりがあちこちに設置された、館の中で唯一ベッドが置かれている部屋で、客室のお風呂の蛇口からもその「七栗の湯」が出てくると聞き、ここだ!と思いました。
さらに、要予約ですが貸し切りの露天風呂が3ヶ所あって、そのうちの一つが要介護の人も入ることができるお風呂もあります。
これなら母も喜んでくれるかもしれない。
お風呂の話をしても、「わたしは絶対に入らない」と頑なに断られていたのですが、現地に行って自分の目で見たら気が変わるかもしれないと思い、大阪の弟に頼んで予約を入れてもらいました。
気が利く弟は、誕生日ケーキの注文も済ませてくれて、これでいよいよ本番を待つのみです。
気が利く弟は、誕生日ケーキの注文も済ませてくれて、これでいよいよ本番を待つのみです。
今回の帰省は、母の90歳のお祝いをするために計画した旅でした。
そこに、たまたま同時期に日本を旅することになった次男くんとEちゃん、弟夫婦、そしてKちゃんも合流して、総勢9人が集うお祝いになりました。
母の性格からすると、さらりと、みんなで祝ってくれてありがとう、というわけにはいかないだろうとは思っていましたが、結果は想像していたのより何倍も、悲しく辛いものとなってしまいました。
原因は、まず第一に、わたしが主になって祝ったことです。
母はこれまでにも、わたしがお金を出すことを異常に嫌い、わたしが彼女の家に居る間は、わたし個人の買い物以外の費用のほとんどを彼女が払っていました。
随分前に一度、母が、「わたしはまだ子どもだったあなたたちを置いて家を出て苦労させてしまった。だからその罪滅ぼしとしてお金はわたしが全部払う」と言ったことがあります。
随分前に一度、母が、「わたしはまだ子どもだったあなたたちを置いて家を出て苦労させてしまった。だからその罪滅ぼしとしてお金はわたしが全部払う」と言ったことがあります。
わたしはだから、かなり慎重に、丁寧に、今回のお祝いは特別なお祝いだから、今回だけはわたしに祝わせてほしいとずっとお願いしてきたのでした。
といっても、わたしが払うと言っているのは母と義父、Kちゃん、そして夫とわたしの分だけで、弟夫婦と次男くんカップルは自腹です。
それなのに宿泊直前まで「わたしが払う」、「いや、わたしが払う」と、母娘で譲らなかったのですが、嫌々でも取り合えず納得してくれたと思っていました。
温泉行きの前日に、居間のカーペットの汚れがひどく、あちこちが劣化してして破けているので買い替えようと言うと(これも今回の旅の目標でした)、「汚くて嫌なら出ていけばいい、わたしはこのカーペットがいいんだから絶対に替えない」と、母は烈火の如く怒り出し、それからはものすごく陰険な雰囲気に…ああ大失敗…。
当日の朝は初っ端からご機嫌斜め…行きの道中も遠いだのしんどいだの道が悪いだの、こんなところに来たくなかっただのと、文句が延々と続きます。
それでもまあ、大阪の弟夫婦は次男くんとEちゃんを車に乗せて、夫とKちゃんは同じく大阪から電車で、そして母とわたしは義父の車で、湯元館に集合しました。
それぞれが各部屋に入り、お土産の交換などをして、それでは夕飯までに温泉に浸かろうということになり、Kちゃんとわたしとで何とかして母を露天風呂まで連れて行こうとしましたが、これまた失敗。
仕方がないので、Kちゃんとわたしだけで浸かりに行くことにしました。
日本屈指の「美肌の湯」、浸かった瞬間にわかりました!
ああ、この気持ちよさと景色の美しさを、母にも感じさせてあげたかった…。
ここのお湯は本当に素晴らしいです。
源泉そのものの湯船もあって、けれども湯の温度は31℃ぐらいで、浸かっていても温まらないような気がするのですが、嘘だと思って15分浸かってみてくださいとおかみさんに言われて試してみると、何か不思議な波動のようなものが体の芯に感じられ、体全体がふわりと浮くような気がしました。
湯量は豊かで、湯船からいつも溢れ出ています。
温泉には19時間の間に3回も浸かったのですが、数日後まで肌がツルツルとして気持ちが良かったです。
めっちゃお勧めです!
お祝いのお料理とケーキ。
部屋のすぐ横を流れている小川。
朝ご飯も美味しかったです。
結果から言うと、このお祝い旅行は大失敗に終わってしまいました。
ただし、母以外の参加者はみな、お湯もお料理も最高だったと言って、とても喜んでくれたので、わたしにとってはそれだけが救いになりました。
母が自室のお風呂に入る時、Kちゃんとわたしが待機しているのが嫌で、一人にしてくれと言い張るので、仕方なく部屋を出たのですが、結局湯船から出ることができなくて大変な思いをしたようです。
浴槽周りに取り付けられていた取手の位置が彼女に合わなかったのと、耳がよく聞こえない義父が酔って寝てしまっていたのとで、足のあちこちに打ち身を作るほどもがいていたのでした。
きっとかなりショックだっただろうし、そんな自分にがっかりしたんだろうと思いますが、彼女の機嫌はますます悪くなっていきました。
その勢いで、チェックアウトのカウンターのところで、「誰が払ったのだ」と大きな声で聞き質し始めた母に、「今回のお祝いの企画と清算はわたしではなく全て次男くんが引き受けたから」と言うと、ようやく静かになったのでした。
その勢いで、チェックアウトのカウンターのところで、「誰が払ったのだ」と大きな声で聞き質し始めた母に、「今回のお祝いの企画と清算はわたしではなく全て次男くんが引き受けたから」と言うと、ようやく静かになったのでした。
家に戻ってからも、旅館の料理のこと、ベッドのこと、そしてもちろんお風呂のことで、文句を言い続ける母と、それをそうかそうかと聞く義父の声を聞きながら、わたしはどんどん落ち込んでしまいました。
あまりに悲しく、あまりに虚しかったので、友人にその気持ちを漏らすと、言葉を尽くして励ましてくれました。
夫と弟にも何度も愚痴りましたが、その都度慰めてくれました。
その3人が共通して言ってくれた言葉があります。
「あなたは彼女の感情を引き受ける義務はない。あなたの価値は彼女を満足させることができるかどうかではない」
「自分をしっかり守りなさい。自分をもっと大切にしなさい」
確かにわたしは、彼女に喜んでもらいたいと思う気持ちと同時に、そういうことができるようになった自分の満足のためにこの計画を立て、費用を払おうとしました。
彼女が最初から賛成していなかったのに、それは現地に行けばなんとかなるだろう、みんなの顔を見れば気が変わるだろうとたかを括っていました。
考えが甘かったのですね。
さて、夫とKちゃんを送って行った榊原温泉口という近鉄沿線の駅のすぐ近くに、おもしろい場所を見つけました。
名前が『ルーブル彫刻美術館』!
いきなり三つの立像、サモトラケのニケ、ミロのヴィーナス、自由の女神像が目に入ります。
なんだなんだなんだ?!この寄せ集めは?!
怪しさ100%の気分でよくよく見てみると、「世界的に有名なパリのルーブル美術館から公式に許可を得て運営している由緒正しい美術館」なんだそうです。
次回はぜひ中に入ってみたいと思います。
その美術館の駐車場の周りには、たくさんのカエルさんたちが。
大観音寺への入り口。
そして少し離れたところには、高さ33メートルの純金大観音「南無開運寶珠大観世音菩薩」さまが。
すっかり沈んでいた気持ちが、ふわりと浮かんだ時間でした。
母たちの家で過ごした日数は小旅行を除くと2週間。
朝に目を開けてから夜に目を閉じる直前まで、母と義父とわたしは同じ部屋で一緒に過ごしました。
朝と昼は彼らのいつものルーティーンを守り、夜はわたしが料理を担当しました。
わたしがいる間は、部屋の掃除と食事の後片付けは任せて欲しいとお願いして、好きなようにやらせてもらいました。
母は朝起きて顔を洗い、朝食を食べ、iPadでシニア用の脳トレゲームをし、新聞を読み、お昼ご飯を食べ、足漕ぎ運動をし、膝から下をマッサージ機で揉みながら新聞を読み、ベッドに寝転がってAmazonタブレットでお気に入りの映画を鑑賞し、おやつを食べ、録画しておいたニュース番組を聴きながらマッサージ器具で目をマッサージし、日が暮れる寸前に散歩に出かけ、夕飯を食べ、お風呂に入り、痛みや痺れを感じる部分をマッサージしたりクリームを塗ったりしてから布団に入り、若い頃から大ファンの森進一の曲を3曲聴いてから眠ります。
料理も洗濯干しも掃除も、一切しなくなりました。
そんな彼女の横にいつもいて、母の言うことを聞き逃しては怒鳴られている義父。
そんな彼女の横にいつもいて、母の言うことを聞き逃しては怒鳴られている義父。
確かに、補聴器をつけていても聞こえない人に、同じことを2度3度と言っている間に怒鳴りつけたくなる気持ちはわからないでもないのですが、これでは双方ともに良くないことは明らかで、この問題の解決が次のわたしのテーマになりそうです。
今回の帰省の最後に、この旅行があったのは幸いでした。
この温泉は母のお気に入りで、車で40分ほどのところにあるやっぽんぽんの湯です。
ここはゴルフを楽しむ人、とろりとしたお湯の温泉を目当てに来る人、美味しい日本料理を食べに来る人に人気があります。
部屋からの夕焼けと朝焼けが絶景でした。
夕焼け編
朝焼け編
ここに来ると母の機嫌はいつも良くなり、お天気や体調が良かったら、彼女の大好きなグランドゴルフもできるコースもあります。
幸いにしてお天気も良く、母の体調もまずまずだったので、コースに出てみました。
幸いにしてお天気も良く、母の体調もまずまずだったので、コースに出てみました。
朝に回った時は足元がおぼつかず、バランスを崩して倒れてしまいましたが、それにもめげずにお昼からも一回りした母。
満足できたようで嬉しそうでした。
足腰を鍛えたい。そうしてこれからもグランドゴルフをできるようになりたい。
そんな願いがわき上がってきたようです。
これから気温がどんどん下がって寒くなりますが、無理のない範囲で、毎日散歩を続けると決心した母。
二人の平安と健康を祈ります。
おまけ写真。
某ファミレスで会ったロボットくん。
日本最後のご馳走、絶品うなぎ。
今回の旅の最後の最後は、ただただ一人になりたくて、羽田空港近くのホテルに泊まりました。
初めて乗った近鉄の特急『ひのとり』。
品川はいつも人でいっぱい。
疲れ過ぎて間違って行ってしまった羽田空港内のホテル。
わたしが予約したホテルは、羽田空港を川向こうに見るホテルでした😅。
ポンポン船がのんびりと。
地産地消の野菜をたっぷり使った朝ごはんがとても美味しかったです。
わたしがいない間、わたしの机の下にある足炬燵の上でずっと眠っていた海ちゃん。