朝食の片づけを終えて、さて掃除に取り掛かろうかと思っていたら電話が鳴った。
電話に出ると、父がお世話になっている高齢者住宅の看護師さんからだった。
「朝早くすみません。お父さんのことなんですが・・・」
このフレーズから始まる看護師さんの電話にはいつも緊張が走る。
看護師さんのお話の続きを待ちながら「父に何かあった?今度はどうした?」そんな思いが頭に浮かぶ。
「お父さんのおしっこが出なくなってしまったんです。腹部が腫れて本人も痛がっているため、カテーテルを使って尿を取ったのですが一度に1400CCも取れました。その後も出ていないので、また溜まっていると思います。
先生(父の主治医)に診てもらい血液検査もしたところ一部に異常もあったので、ご家族に来ていただいて、すぐに泌尿器科を受診してほしいのですが」と看護師さんがおっしゃった。
父の高齢者住宅には内科の先生が定期的に往診してくれるのだが、病院に行かなければいけなくなった時は家族が連れて行かなければならない。
内科であれば高齢者住宅の隣にあるので、自力で動くことができない父を車椅子に乗せたまま連れていけるのだが、今回連れて行くのは泌尿器科。
泌尿器科はすこし遠いので車を使わなければならない。
身体が不自由で、また身体が大きい父をはたして車椅子から車に乗り移らせることができるだろうか・・・
一瞬不安になったが、そうは言っても一刻も早く病院に連れて行かなければいけない。
急いで車を走らせ高齢者住宅に父を迎えに行くと、父は元気なく車いすに座っていた。
「お父さん、やっぱりおしっこがまったく出ないんです」と看護師さんが教えてくれた。
父は二年ほど前に前立腺肥大で手術を受けている。
その時もおしっこの出が悪くなったので、もしかしたらまた前立腺が悪いのかもしれない。
さっそく父に上着を着せ、車椅子のまま駐車場に止めている車まで連れて行った。
さて、車に乗り移らせることはできるのだろうか。
まず父に大声で車に乗って病院へ行くことを知らせた。
「お父さん、病院へ行くよ。だから車に乗ってねー!頑張って自分で足をあげて乗ってねー!」
父に少しでも協力してもらわなければ、身体の大きな父をひとりで抱えて車に乗せることなどできない。
「まず一人で立ってみて」「そうそう、ここにつかまって」「お尻を車に向けて」
父も自分で身体を動かそうと必死に努力しているのが伝わってくるのだが、すべての機能が落ちているため、立つこともつかまることも、座ることも、ほんの少し足を上げることも介助が必要で、少しでも介助の手をゆるめると倒れてしまいそうだった。
外はあいにくの雨。
徐々に雨足が強くなってきたのだが、傘をさしたくても両手がふさがっていてさせない。
濡れないように父に帽子をかぶせるのが精いっぱいで、もう雨を気にしている余裕はなかったが、父の身体を支えながら、なんとか父を車に乗せることができた。
やっと父を車に乗せると急いで泌尿器科のある病院へ向かった。
カーナビを使ったので、初めてでも難なく病院へ着くことができた。
ところが車を止めて、はたと気づいた。
今度は父を車から降ろして車椅子に乗せるという、先ほどの逆バージョンをしなければいけないのだったわ。
そこは駐車場が狭く、しかも混んでいたため、一台だけ空いていた駐車スペースに入ろうと思ったのだが、入ってしまうと父を車から降ろすことができなくなる。
他に父を降ろせる場所はないかと周囲を見渡したが、交通量の多い道路沿いなので難しい。
そこで仕方なく駐車場が空くまで、しばらく待つことにした。
車の後部座席でぐったりとして目をつぶっている父の様子が気になった。
これだけでも父の負担は大きいのだろう。
それからまもなく何台かの車が駐車場を出て行ったので、また悪戦苦闘しながら父を車椅子に移し、やっと病院へ入った。
・・・のだが、病院は非常に混み合っていて受付から一時間以上を待ち、やっとCTを撮ってもらうことになった。
CTを撮ってからさらに待たされ、やっと診察室に入ったら、お医者さんが難しい顔をして何枚も並んでいる父のCTの写真を眺めていた。
そして私たちが椅子に座ると、静かに語り始めた。
「これはですねぇ、便ですね。ここ、見てください。ここに大便が詰まっているんですよ」
父のCT写真には腸に詰まっていると思われる黒い塊が写っていた。
「溜まった大便が膀胱を圧迫して尿が出なくなっているんです。前立腺に問題はありませんから、便を取り除けば尿が出ます」とのことだった。
「もしかして、また入院するのかも」と思っていたので、便が詰まって尿が出にくくなっているだけと聞いてホッとした。
便を取るのはいつも診て頂いている看護師さんがやって下さることになったので、薬が出ることもなくそのまま高齢者住宅へ戻ることができた。
父を車に乗せたり降ろしたり、また長い待ち時間などでずいぶんと時間がかかり、私も疲れたが父も疲れたと思う。
そこで、今度は「福祉タクシー」というものを利用してみよう。
なんでも車いすのまま車に乗ることができるのだとか。
車の移動が楽にできたら、病院へ連れて行くのも苦労はない。
ホントにいろいろと勉強になります。。。
電話に出ると、父がお世話になっている高齢者住宅の看護師さんからだった。
「朝早くすみません。お父さんのことなんですが・・・」
このフレーズから始まる看護師さんの電話にはいつも緊張が走る。
看護師さんのお話の続きを待ちながら「父に何かあった?今度はどうした?」そんな思いが頭に浮かぶ。
「お父さんのおしっこが出なくなってしまったんです。腹部が腫れて本人も痛がっているため、カテーテルを使って尿を取ったのですが一度に1400CCも取れました。その後も出ていないので、また溜まっていると思います。
先生(父の主治医)に診てもらい血液検査もしたところ一部に異常もあったので、ご家族に来ていただいて、すぐに泌尿器科を受診してほしいのですが」と看護師さんがおっしゃった。
父の高齢者住宅には内科の先生が定期的に往診してくれるのだが、病院に行かなければいけなくなった時は家族が連れて行かなければならない。
内科であれば高齢者住宅の隣にあるので、自力で動くことができない父を車椅子に乗せたまま連れていけるのだが、今回連れて行くのは泌尿器科。
泌尿器科はすこし遠いので車を使わなければならない。
身体が不自由で、また身体が大きい父をはたして車椅子から車に乗り移らせることができるだろうか・・・
一瞬不安になったが、そうは言っても一刻も早く病院に連れて行かなければいけない。
急いで車を走らせ高齢者住宅に父を迎えに行くと、父は元気なく車いすに座っていた。
「お父さん、やっぱりおしっこがまったく出ないんです」と看護師さんが教えてくれた。
父は二年ほど前に前立腺肥大で手術を受けている。
その時もおしっこの出が悪くなったので、もしかしたらまた前立腺が悪いのかもしれない。
さっそく父に上着を着せ、車椅子のまま駐車場に止めている車まで連れて行った。
さて、車に乗り移らせることはできるのだろうか。
まず父に大声で車に乗って病院へ行くことを知らせた。
「お父さん、病院へ行くよ。だから車に乗ってねー!頑張って自分で足をあげて乗ってねー!」
父に少しでも協力してもらわなければ、身体の大きな父をひとりで抱えて車に乗せることなどできない。
「まず一人で立ってみて」「そうそう、ここにつかまって」「お尻を車に向けて」
父も自分で身体を動かそうと必死に努力しているのが伝わってくるのだが、すべての機能が落ちているため、立つこともつかまることも、座ることも、ほんの少し足を上げることも介助が必要で、少しでも介助の手をゆるめると倒れてしまいそうだった。
外はあいにくの雨。
徐々に雨足が強くなってきたのだが、傘をさしたくても両手がふさがっていてさせない。
濡れないように父に帽子をかぶせるのが精いっぱいで、もう雨を気にしている余裕はなかったが、父の身体を支えながら、なんとか父を車に乗せることができた。
やっと父を車に乗せると急いで泌尿器科のある病院へ向かった。
カーナビを使ったので、初めてでも難なく病院へ着くことができた。
ところが車を止めて、はたと気づいた。
今度は父を車から降ろして車椅子に乗せるという、先ほどの逆バージョンをしなければいけないのだったわ。
そこは駐車場が狭く、しかも混んでいたため、一台だけ空いていた駐車スペースに入ろうと思ったのだが、入ってしまうと父を車から降ろすことができなくなる。
他に父を降ろせる場所はないかと周囲を見渡したが、交通量の多い道路沿いなので難しい。
そこで仕方なく駐車場が空くまで、しばらく待つことにした。
車の後部座席でぐったりとして目をつぶっている父の様子が気になった。
これだけでも父の負担は大きいのだろう。
それからまもなく何台かの車が駐車場を出て行ったので、また悪戦苦闘しながら父を車椅子に移し、やっと病院へ入った。
・・・のだが、病院は非常に混み合っていて受付から一時間以上を待ち、やっとCTを撮ってもらうことになった。
CTを撮ってからさらに待たされ、やっと診察室に入ったら、お医者さんが難しい顔をして何枚も並んでいる父のCTの写真を眺めていた。
そして私たちが椅子に座ると、静かに語り始めた。
「これはですねぇ、便ですね。ここ、見てください。ここに大便が詰まっているんですよ」
父のCT写真には腸に詰まっていると思われる黒い塊が写っていた。
「溜まった大便が膀胱を圧迫して尿が出なくなっているんです。前立腺に問題はありませんから、便を取り除けば尿が出ます」とのことだった。
「もしかして、また入院するのかも」と思っていたので、便が詰まって尿が出にくくなっているだけと聞いてホッとした。
便を取るのはいつも診て頂いている看護師さんがやって下さることになったので、薬が出ることもなくそのまま高齢者住宅へ戻ることができた。
父を車に乗せたり降ろしたり、また長い待ち時間などでずいぶんと時間がかかり、私も疲れたが父も疲れたと思う。
そこで、今度は「福祉タクシー」というものを利用してみよう。
なんでも車いすのまま車に乗ることができるのだとか。
車の移動が楽にできたら、病院へ連れて行くのも苦労はない。
ホントにいろいろと勉強になります。。。