遊びにきた長男が新しく買ったというカメラを持ってきた。
ウチの裏山に来る動物や景色を撮りたいのだという。
「仕事で使うから買ったんだ。これ買うのに一年くらい悩んだよ」
仕事というのは副業のことで、高価なカメラを買ってまで、その仕事を続けていくのかを一年間考えたらしい。
「で、やっぱ、やりたいって思ったんだ。お客さんからお金を頂いてやる以上、スマホのカメラでと言うのは安易すぎる。お客さんだって、スマホを使っているのを見たらコイツ大丈夫かな?って思うっしょ」
長男は会社員だが、副業を認められている為、一昨年から副業を始めた。
長男のモチベーションは高く、今のところ目標は年収を倍にすることだとか。
「会社は自分の基盤なので、仕事は絶対に手を抜かない。副業は仕事が終わってからと休みの日にやるから大丈夫」
これは副業反対の夫が、会社の仕事が疎かになることを心配して聞いたところ長男がそう答えた。
「正直、会社の今の仕事はあんまり面白くない。決まった仕事をこなすだけだから。でも副業の方は面白い。やっぱ好きなんだなぁと思う」と長男は言った。
長男の副業は「広告」だそうで、一人で営業して一人で作っているそうだ。
そして昨年から少しずつ仕事が入ってきているとか。
「でもカネを稼ぐ大変さが、今、本当に身に染みてる。いやーほんとに大変だわ」
特に大変なのは営業で、会社が終わってから自分の作ったものを持ってセールスに歩いているそうだ。
アポをとってから行くのか、飛び込みで行くのか聞かなかったが、会社も作っていない一人の若者に仕事を任せようと思ってくれる所が、どれくらいあるのだろうかと思う。
大変だーと言うからには、そう簡単には仕事がもらえないのかもしれない。
それにしても長男のこのモチベーションの高さは一体どこからくるのか、、、
長男は就職してから、若い起業家らが集まる会にちょくちょく顔を出しているそうだ。
そこで勉強させてもらったり手伝いをさせてもらったりしているうちに、意識が変わってきたらしい。
「会社に勤めても、今の時代はこれで安心ということはないんだ。大企業に入ったってどうなるか分からないし、早期退職を求められるかもしれない。だから突然辞めてくださいと言われても、すぐにオッケーと言えるようにしておきたい。今の20代、30代の人って、そう考えている人が割と多いよ」
終身雇用制度を長く生きてきた夫にとって、長男の話は理解し難いようだったが、私は話を聞きながらワクワクした。
休みは無くなるけど、営業は大変だけど、それ以上に楽しんで仕事をしているように思えたから、心から応援したいと思った。
「なんならお母さん、無報酬で事務員さんになってあげようか?」と喉まで出かかってやめた。
いかんいかん、つい親ばかの過保護が出そうになる。
もう長男は一人前の大人になったのだ。母親が出なくてもお嫁さんがいる。
それにしても久しぶりのワクワク感。
私も何か始めたいと思える新春だった。