『熊本俳句(第52号』(熊本県俳句協会)
ネット時代における俳句の発信
永田満徳
井上微笑の「白扇会報」が日本の近代俳句史上で特筆されるのは、会員の中に近代俳句を推進した人々が名前を連ねていることである。選者、寄稿者を列挙してみると、夏目漱石・高浜虚子・河東碧梧桐・内藤鳴雪・阪本四方太・石井露月・松瀬青々・野田別天楼・寒川鼠骨等。これらの人物はいわゆる子規派、新派俳句と称される人々である。微笑は漱石に依頼して、上記の人々に選句、俳句の寄稿を頼んでいる。漱石自身が依頼に応じられない場合は高浜虚子、河東碧梧桐らを紹介している。一地方誌に過ぎなかった「白扇会報」を中央俳壇に押し上げてくれたのは夏目漱石だと言わざるを得ない。
しかし、それ以上に、「白扇会報」の発行で浮かび上がってくるのは、微笑の熱意に夏目漱石が振り回された格好であるが、微笑の「白扇会報」の発行に対する熱意であり、相手の再三の断りも意に介さないほどの情熱である。
私が熊本在住ながら、全国にはネットやSNSの句会を運営する「俳句大学」を設立し、また、世界には国際的な句座を提供するFacebook「Haiku Column」を立ち上げて、インターネットによる俳句の発信を心掛けているのは、明治時代に熊本の湯前という僻遠の地で、漱石を引き入れて、俳誌「白扇会報」を発行した井上微笑の熱意、情熱に共鳴するからである。
ところで、2022年一月、月刊「俳句界」文學の森では俳句大学の「ネット時代の俳句の可能性を探る」取組みに共鳴し、『文學の森』ZOOM句会と名付けられた句会を本格的に始めた。句座の地位に着きつつあるzoom句会を催すことによって、俳句興隆の一助にしたいとの思いで、企画されたものである。ハンガリーや台湾の参加者もいるこの企画に、俳句大学は立ち上げの段階から今日まで協力している。
俳句大学は、ネット時代を迎えた現今、全国へ、世界へ、リアルタイムなネット句会を通した俳句の可能性を熱意と情熱をもって展開し、ウイズ コロナ、ポスト コロナ社会を見据えた国内外の俳句文化の更なる発展に寄与していきたいと考えている。
(俳人協会本県支部長・俳句大学学長・「火神」編集長・「秋麗」同人 永田満徳)