古今亭志ん生著『びんぼう自慢』(ちくま文庫、2005年1月10日刊行)には、タバコが出てくるシーンがいくつかありましたので、以下、ご紹介いたします。
【26ページ】
あたしは、13、4でもう酒ェくらっていたんですが、酒屋でそんな年ごろの子供に、平気で酒ェ売るんですからしょうがない。そのくせ、タバコ屋のほうはてえと、子供にゃァ売ってくれない。うっかり吸っているのをお巡りにめっかると罰金を取られるし、売った店だって叱られます。随分片手落ちだと思うが、あたしの考えでは、子供のうちにタバコをやると、物覚えがわるくなるからでしょうね。
【27ページ】
あるとき、金にこまって、あたしは、ひょいと考えて、おやじのキセルを近所の質屋へなにしちゃったんです。その時分はてえと、キセルに金ェかけて、お互いに自慢し合ったもので、おやじだって、随分といいものを何本か持っていた。その中で、赤銅の金をあしらったとびっきり上等の奴を、あたしが持ち出して曲げ(入質する)ちまったんだから、さァ、大変!
【230ページ】
(電気ブランの)吞みかたてえのがむずかしい。途中でうっかりタバコなんぞ喫おうものなら、火ィ呼んで爆発するてえくらい。----
電気ブランをクーッとやって、大急ぎで水を半分ギューとのんでから、馬どん(牛丼みたいな馬丼)をサーッとかっ込んで、また水をキユーッと流し込むんですよ。腹ン中で、そいつがうまく混ざって、しばらくたつてえと、ボーッとしてくる。それでも、明くる朝は、舌がもつれるんです。
【275ページ】
(昭和22年1月、無事に焼け残っていた家に帰還して)着物ォ着て、2年ぶりで家の屋敷にあぐらァかいて、しみじみと見わたすてえと、部屋ン中にあるものは、真鍮のキセルと灰落としだけで、あとはなにもありゃァしない。一服しようにも、タバコがねえんだから、喫うことが出来ない。