“令和最初”の漫才日本一を決める『M-1グランプリ2019』。決勝初出場が7組というこれまでになかったフレッシュな顔ぶれだった。これぞ漫才というネタを披露した初出場・ミルクボーイがファーストラウンドで史上最高点をたたき出し、勢いそのままに最終決戦も圧勝(審査員7人中6票)、見事15代目王者に輝いた。
いつものように決勝出場全組をネタ順に評価したい。
■ニューヨーク
初出場でしかもトップバッターというくじ運の悪さ。普段より緊張している感じが見て取れた。M-1用に、盛り上がる歌ネタを持ってきたが、本来、このコンビは屋敷の粘っこいツッコミが売りだと私は思っている。その良さが活かされてないなあと感じていた。案の定、審査員のまっちゃんが「ツッコミが笑っているのが気になる」というダメ出しをした。もっとウケるネタを持っているコンビ。自分たちの漫才のコアは何か、ということを突き詰めて舞台に上がってほしかった。
■かまいたち
ファーストラウンド、いきなりの二番手。「これは痛いな」と思ったが、さすがかまいたち。ほぼ完ぺきな漫才で、決勝の雰囲気を早々に押し上げた。ネタは「UFJとUSJの言い間違い」という、彼らが以前から得意としているもの。山内のおとぼけや開き直りに対し、浜家の、怒ったり、困ったり、呆れたり、客に同意を求めたりと、単に突っ込むだけではなく、変化を付けたリアクションが、漫才に広がりを持たせた。最終決戦の「トトロを観たことがない」ネタも、前日家族団らんで、私が「トトロを観たことがない」という話をちょうどしていたところだったので、よりツボにはまり、非常に面白かった。しかし最後、ミルクボーイの「最中」に刺された。今回は、さすがのかまいたちでもどうしようもない。
■和牛
準決勝で敗退したときには、和牛の旬も終わったか、と思ったが、きちんと敗者復活で勝ち上がってきた。「これはワンチャンあるで」と期待したが、いざ決勝で行ったネタは敗者復活と同じ、賃貸物件探しのネタ。これには一緒に観ていた家族もがっかりだったようで、ネタ中妻が「敗者復活と一緒や~ん」「アカンわ~」と盛んにダメ出しするので、こちらも集中して観られなかった。後半、川西が「いいね!」とポーズを決める、ある種彼らしくない突っ込みで、従来のスタイルに変化が見られたが、爆発的な笑いには至らなかった。9組目まで3位に踏みとどまっていたが、最後ぺこぱに抜かれるという劇的な敗北を喫した。
■すゑひろがりず
全く知らないコンビ。すゑひろがりずという名前、着物を着て鼓や扇子を持っているところからして、古典芸能に扮した漫才をするのだろうとは予想していたが、その通りだった。二人とも発声が良く、古典的なしゃべり方も板についている。個人的にはかなり面白かったし、よく笑った。今年のレベルが高かったのと、ちょっと際物的な見られ方をしたので、点数も順位もイマイチだったが、例年なら決勝ラウンドに残ってもいいくらいのコンビだ。来年は、正月番組や目立たい席の営業に呼ばれるだろう。1月になんばグランド花月公演のチケットをおさえているが、すゑえひろがりずが出る予定。楽しみ。
■からし蓮根
関西では名の知れたコンビ。新人賞レースなどは常連で、今年はytv漫才新人賞を獲得した(ちなみに去年の優勝は霜降り明星)。ボケとツッコミの見た感じのバランスも良い。私は密にダークホースだと思っていた。ただ今回のネタは、どうだろう、もう一つ元気が無かった。彼らのネタなら、もっとM-1向けにはっちゃけたやつがあったはず。自分が期待し過ぎたのかな。審査員の点数がちょっと甘い気がした。
■見取り図
去年の決勝出場以来、TVで彼らをよく見た。非常に良い人たちで、番組や芸に取り組む姿勢は一生懸命。だが、決してぶっ飛んだ天才肌でなはい。今回も、お互いに褒め合いながら、リリーが盛山を少しずつディスっていく、という彼ららしいズレの漫才だった。面白かったが、今大会のレベルの高さでは見劣りする。途中、と得意の時間差突っ込み「ダンサーの綱吉って誰?」と、盛山が噛んだところで言った「すいません、お昼に爆竹食べました」というアドリブは面白かった。
■ミルクボーイ
天王寺住みます芸人。右の角刈り内海が行ってる散髪屋が私と一緒。決勝前から家族や地元のツレの多くは断然ミルクボーイ推しだった。もともと彼らの得意のネタは、駒場のオカンの思い出せないものを、内海が当てにいきながら行ったり来たりするという、すべてあのフォーマットになっている。なので子供たちも「どのネタでいくんだろう」というより、「(オカンの思い出せないモノは)何やろう」という予想の仕方をしていた。それで最初は、コーンフレーク。これは彼らの一番得意なモノだったようで、子供たちも「やっぱり!」というリアクション。そして、観客も審査員もお茶の間も爆笑の連続。史上最高点をたたき出した。最終決戦は「最中」。流れが分かっている観客は引き続き大爆笑。漫才中の漫才が令和最初のチャンピオンに輝いた。
■オズワルド
ミルクボーイの完璧な漫才の後で、舞台と客席に感動やどよめきが残っている中、次の出番はさぞかししんどかっただろう。しかも、スタイルは、おぎやはぎを彷彿とさせる飄々としたローテンション系の漫才。会場の空気に飲み込まれてしまう危険もあったが、きちんとネタが面白かったし、テンションは低くても、ボケ・ツッコミともに、良いリズムと適切な言葉のチョイスだったので、まったく問題はなかった。ただ、M-1で優勝したいのなら、このスタイルの漫才でどうやって、会場を巻き込んでいくか、考えてほしい。
■インディアンス
わりと「これから期待のコンビ」みたいな感じで、TV番組などにもちょこちょこ出ている。私は『本能Z』か何かで見て、面白いと思っていた。本番も彼らの“らしさ”が表現されおり、手数が多く、笑いもたくさん取れていた。ただ点数は思ったより伸びなかった。こういった漫才は、アンタッチャブルなどがもうほぼ完成形を示しているからかもしれない。もう一段突き抜けようと思ったら、おとぼけギャグの連発だけでなく、ネタにストーリート深みが欲しい。
■ぺこぱ
志らくや巨人が「一見、好きな感じじゃない」とコメントしていたが、私もそうだった。順番が最後だし、出てきたときに、「一人よがりの空回り漫才みたいなんやったら寒いぞ」と危惧していたが、どうしてどうして、松陰寺の突っ込みっぽいボケコメント(まっちゃんは「ノリ突っ込まない」と名付けていたが言いえて妙)にどんどんはまっていった。TVを見ながら拍手をしない私も、途中笑いながら手をたたいていた。松陰寺の氷室京介風(一説には河村隆一?)のしゃべりが、BOOWYファンの私の心を完全に掴んだ。今日イチ。
以上、52歳になってもこんなことを真面目に書いている自分がつくづく情けなく、かつ、わりと好きだったりする。
いつものように決勝出場全組をネタ順に評価したい。
■ニューヨーク
初出場でしかもトップバッターというくじ運の悪さ。普段より緊張している感じが見て取れた。M-1用に、盛り上がる歌ネタを持ってきたが、本来、このコンビは屋敷の粘っこいツッコミが売りだと私は思っている。その良さが活かされてないなあと感じていた。案の定、審査員のまっちゃんが「ツッコミが笑っているのが気になる」というダメ出しをした。もっとウケるネタを持っているコンビ。自分たちの漫才のコアは何か、ということを突き詰めて舞台に上がってほしかった。
■かまいたち
ファーストラウンド、いきなりの二番手。「これは痛いな」と思ったが、さすがかまいたち。ほぼ完ぺきな漫才で、決勝の雰囲気を早々に押し上げた。ネタは「UFJとUSJの言い間違い」という、彼らが以前から得意としているもの。山内のおとぼけや開き直りに対し、浜家の、怒ったり、困ったり、呆れたり、客に同意を求めたりと、単に突っ込むだけではなく、変化を付けたリアクションが、漫才に広がりを持たせた。最終決戦の「トトロを観たことがない」ネタも、前日家族団らんで、私が「トトロを観たことがない」という話をちょうどしていたところだったので、よりツボにはまり、非常に面白かった。しかし最後、ミルクボーイの「最中」に刺された。今回は、さすがのかまいたちでもどうしようもない。
■和牛
準決勝で敗退したときには、和牛の旬も終わったか、と思ったが、きちんと敗者復活で勝ち上がってきた。「これはワンチャンあるで」と期待したが、いざ決勝で行ったネタは敗者復活と同じ、賃貸物件探しのネタ。これには一緒に観ていた家族もがっかりだったようで、ネタ中妻が「敗者復活と一緒や~ん」「アカンわ~」と盛んにダメ出しするので、こちらも集中して観られなかった。後半、川西が「いいね!」とポーズを決める、ある種彼らしくない突っ込みで、従来のスタイルに変化が見られたが、爆発的な笑いには至らなかった。9組目まで3位に踏みとどまっていたが、最後ぺこぱに抜かれるという劇的な敗北を喫した。
■すゑひろがりず
全く知らないコンビ。すゑひろがりずという名前、着物を着て鼓や扇子を持っているところからして、古典芸能に扮した漫才をするのだろうとは予想していたが、その通りだった。二人とも発声が良く、古典的なしゃべり方も板についている。個人的にはかなり面白かったし、よく笑った。今年のレベルが高かったのと、ちょっと際物的な見られ方をしたので、点数も順位もイマイチだったが、例年なら決勝ラウンドに残ってもいいくらいのコンビだ。来年は、正月番組や目立たい席の営業に呼ばれるだろう。1月になんばグランド花月公演のチケットをおさえているが、すゑえひろがりずが出る予定。楽しみ。
■からし蓮根
関西では名の知れたコンビ。新人賞レースなどは常連で、今年はytv漫才新人賞を獲得した(ちなみに去年の優勝は霜降り明星)。ボケとツッコミの見た感じのバランスも良い。私は密にダークホースだと思っていた。ただ今回のネタは、どうだろう、もう一つ元気が無かった。彼らのネタなら、もっとM-1向けにはっちゃけたやつがあったはず。自分が期待し過ぎたのかな。審査員の点数がちょっと甘い気がした。
■見取り図
去年の決勝出場以来、TVで彼らをよく見た。非常に良い人たちで、番組や芸に取り組む姿勢は一生懸命。だが、決してぶっ飛んだ天才肌でなはい。今回も、お互いに褒め合いながら、リリーが盛山を少しずつディスっていく、という彼ららしいズレの漫才だった。面白かったが、今大会のレベルの高さでは見劣りする。途中、と得意の時間差突っ込み「ダンサーの綱吉って誰?」と、盛山が噛んだところで言った「すいません、お昼に爆竹食べました」というアドリブは面白かった。
■ミルクボーイ
天王寺住みます芸人。右の角刈り内海が行ってる散髪屋が私と一緒。決勝前から家族や地元のツレの多くは断然ミルクボーイ推しだった。もともと彼らの得意のネタは、駒場のオカンの思い出せないものを、内海が当てにいきながら行ったり来たりするという、すべてあのフォーマットになっている。なので子供たちも「どのネタでいくんだろう」というより、「(オカンの思い出せないモノは)何やろう」という予想の仕方をしていた。それで最初は、コーンフレーク。これは彼らの一番得意なモノだったようで、子供たちも「やっぱり!」というリアクション。そして、観客も審査員もお茶の間も爆笑の連続。史上最高点をたたき出した。最終決戦は「最中」。流れが分かっている観客は引き続き大爆笑。漫才中の漫才が令和最初のチャンピオンに輝いた。
■オズワルド
ミルクボーイの完璧な漫才の後で、舞台と客席に感動やどよめきが残っている中、次の出番はさぞかししんどかっただろう。しかも、スタイルは、おぎやはぎを彷彿とさせる飄々としたローテンション系の漫才。会場の空気に飲み込まれてしまう危険もあったが、きちんとネタが面白かったし、テンションは低くても、ボケ・ツッコミともに、良いリズムと適切な言葉のチョイスだったので、まったく問題はなかった。ただ、M-1で優勝したいのなら、このスタイルの漫才でどうやって、会場を巻き込んでいくか、考えてほしい。
■インディアンス
わりと「これから期待のコンビ」みたいな感じで、TV番組などにもちょこちょこ出ている。私は『本能Z』か何かで見て、面白いと思っていた。本番も彼らの“らしさ”が表現されおり、手数が多く、笑いもたくさん取れていた。ただ点数は思ったより伸びなかった。こういった漫才は、アンタッチャブルなどがもうほぼ完成形を示しているからかもしれない。もう一段突き抜けようと思ったら、おとぼけギャグの連発だけでなく、ネタにストーリート深みが欲しい。
■ぺこぱ
志らくや巨人が「一見、好きな感じじゃない」とコメントしていたが、私もそうだった。順番が最後だし、出てきたときに、「一人よがりの空回り漫才みたいなんやったら寒いぞ」と危惧していたが、どうしてどうして、松陰寺の突っ込みっぽいボケコメント(まっちゃんは「ノリ突っ込まない」と名付けていたが言いえて妙)にどんどんはまっていった。TVを見ながら拍手をしない私も、途中笑いながら手をたたいていた。松陰寺の氷室京介風(一説には河村隆一?)のしゃべりが、BOOWYファンの私の心を完全に掴んだ。今日イチ。
以上、52歳になってもこんなことを真面目に書いている自分がつくづく情けなく、かつ、わりと好きだったりする。