世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

阿修羅王、怒れる女神

2007-07-02 09:00:28 | 画集・ウェヌスたちよ
似ていません。この絵は、色っぽいお姉さんという感じですが、萩尾の描いた阿修羅王は、もっと子供っぽく、少年のような感じです。相変わらず、記憶だけをたよりに、自分の好きなように描いて楽しんでいます。

阿修羅王は、光瀬龍の書いた小説を原作に、少年誌に連載した作品、「百億の昼と千億の夜」の主人公です。キャラクターのモデルは、興福寺の阿修羅王立像なのではないかと思います。

釈迦、アトランティスのオリオナエ、弥勒など、壮大な名前が並び、物語は宇宙の真相、神の真意などと、苦しいテーマをかかげていますが、今読むと、その当時の人間の魂が、社会の激しい嘘にさいなまれているという告発を、仮構の中に隠して訴えている作品の一つだと考えられます。

開発と称してすべてを滅ぼそうとしている、「シ」の真意を見抜き、絶望的な戦いを挑む、阿修羅王。「シ」は、宇宙の支配者かとさえ思われる、大きすぎてなぞに満ちた存在。権力の一切を掌握している。

「シ」との戦いの一切に敗れ去った阿修羅王は、ともに戦った友人をすべて失い、孤独におちる。そして宇宙の滅びの岸辺で、彼女は「シ」ではない、なぞの存在に出会う。

「わたしは、天輪王だ」

それは、「宇宙」そのものとの出会い。「シ」にとって、宇宙は、ただの「炉」に過ぎなかった。だのに、その炉に「それ自身」というものがあった。宇宙自身、宇宙そのもの。その存在を、「シ」は知らない。

阿修羅王は、再び、歩き始める。ただ一人で。

愛しているといいながら、すべてをうばうものがいる。お前たちは阿呆だ、とるに足らぬものだ、だからおれが何とかしてやるといいながら、すべてを苦しめているものがいる。彼はその嘘を見抜くものを、徹底的に叩き潰す。

萩尾望都はそれに敗れ去った。だが、阿修羅王は再び、絶望的な戦いを挑む。すべてをうばわれ、ただ一つだけ自分の下に残ったもの。本当の「自分自身」だけを、ともにして。

 
コメント (4)
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