アシメックはキルアンを間近に見た。青みを帯びた毛皮が異様に美しく見えた。角が光っているようだった。目は黒に近い深い青色をしていた。知っている。アミザという名の香草をちぎる時、切り口がちょうどこんな色になる。それと一緒に魚を煮ると魚が青くなるが、いい香りがしてうまいのだ。
そんなことをなんとなく考えながら、アシメックはナイフを翻していた。うらあ!という自分の叫び声を聞いた。キルアンの首の、太い動脈があるところが、奇妙に赤く浮いて見えていた。アシメックはそこをめがけてナイフを振り下ろした。
カシワナカよ!!
男が神の名を呼ぶときは、命をかけているときだと、先の族長に聞いたことがある。
サリクたちは見た。再び襲い掛かってくるキルアンに立ち向かい、風がそれるように鹿の横に回り、アシメックがキルアンの首にナイフをさすのを。
鹿の叫び声が聞こえた。アシメックの手を噴き出た血が濡らした。だがまだ油断してはならない。敵は傷を受けてもっと興奮するだろう。どんな反撃をされるやらわからない。
アシメックの後ろで石のように固まっていたトカムを、シュコックが引き戻した。モカドやレンドや狩人組の仲間たちが、一斉にキルアンに向かって矢を放った。サリクは夢中で走り寄り、尻の方からキルアンに飛びついた。
何が何やらわからなかった。みな夢中で暴れまわっていた。そして気付いたとき、足を天に向けて痙攣させている、キルアンの体の上に、みながのしかかっていた。石や矢が周りに飛び散っていた。けがをしているものも何人かいた。
サリクは泣きながら、何度もキルアンの腹をたたいた。シュコックだけは冷静だった。鹿の首をなで、まだ絶命していないのを確かめると、自分のナイフをぬき、とどめをさした。
「死んだぞ」
シュコックが言ったとき、みなはようやく我に返った。トカムは少し離れたところで、身を抱えて震えていた。
アシメックはその近くで、四肢を広げて横たわっていた。