アシメックは今日、用があって川を渡り、ヤルスベを尋ねていたのだ。ヤルスベ族に預けてある二人の子供の様子を見るためだった。トカムは早々に帰ってしまったが、残った二人はまじめに勉強し、だいぶ仕事を覚えていた。ヤルスベ族にも大切に扱われているようだった。アシメックは安心して帰って来たのだ。
「おお、アシメック! 今日の狩りはよかったよ!」
アシメックの姿を見るなり、シュコックが言った。アシメックもうれし気に答えた。
「そうか。よかったな。明日はおれも狩りにいこう」
「おお、そうしてくれ、そうしてくれ、きっといい鹿がとれる!!」
シュコックは上機嫌に言った。
その夕餉の隅っこで、トカムがつまらなそうに、煮た鹿の足を噛んでいた。
次の日の狩りには、アシメックも参加した。シュコックを先頭に、一列になって狩人組はイタカに向かう。アシメックは最後尾のトカムを気にしながら、自分の弓を持って続いた。
トカムは居心地が悪そうだった。アシメックの視線をしきりに気にしている。ヤルスベでの仕事もまともにできなかったことを気にしているのだろう。アシメックも苦い思いを抱いていた。オラブのようなことにしないためにも、トカムにあった仕事を見つけてやりたい。一応今は狩人組に入れてもらってはいるが、こんな仕事にトカムが合っているとは思えない。下手をやらないように気を使ってやらねばなるまい。
アシメックは無意識のうちに腰のナイフに手を触れた。今朝のミコルの占いが振るわなかったので、エルヅに頼んで長めのナイフを借りてきたのだ。毒の皿と一緒に腰にさげてある。なんでかわからないが、そうしたほうがいいような気がしたのだ。狩人組でナイフを携行していいのはシュコックだけだったが、アシメックは族長だから別格だ。
イタカの野に入ると、遠目に、昨日よりも多くなった鹿の群れが見えた。若草色の角を生やした雄が多くいる。一行は目をそばだてた。弓を持つ手に力が入る。