アロンダ、と彼はもう一度言った。あの女を、もう一度見てみたい。そんな気持ちになったのは初めてだった。村の女たちは、彼をトカゲのように嫌っていた。彼もまた、村の女たちを、ネズミのようなぶすだと日ごろからののしっていた。しかしアロンダはちがう。あれはなんだ。なんであんなに美しいのか。オラブの頭の中で、あの時に見たアロンダの美しい横顔がよみがえった。オラブはうめいた。
だがあれはヤルスベの女だ。ケセンを渡らねば見ることはできない。彼はそう思って一度ケセンを泳いでみた。そしてそのよく見える目で向こう岸を探った。
川岸で洗濯をしていたヤルスベの女たちの一群を見たが、その中にアロンダの姿はなかった。
ヤルスベ側に上陸しようかとも思ったが、そのときに村の漁師に見つかったので、彼はあわてて逃げた。
だが、もう一度会ってみたい。会って、あの美しさをよく見てみたい。オラブはそう思っていた。
日が暮れてきた。オラブは寒さに身を縮めた。また夜がやってくる。寂しい夜が。彼は、自分がすすり泣くのをとめることができなかった。
眠ればいい。眠ればなにもかもを忘れられるのだ。そうして彼はうとうととし始めた。夢の中で、かすかに、ほほ笑んだアロンダの顔を見たような気がした。