世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

歌垣①

2017-12-25 04:13:02 | 風紋


春が深くなると、アマ草はひいて、カシモ草が生えてくる。そうすると、鹿は山に帰っていく。イタカの野に鹿がいなくなり、鹿狩りの季節が終わると、村は急にそわそわしだす。春の祭りが来るのだ。

歌垣だ。一年に一度の、恋の祭りが来るのである。

鹿の群れが去った後の、イタカの野に夢の櫓を立て、その周りで男と女が踊り、歌を歌いあって、呼びあうのだ。

男と女がいる限りは、恋は限りなく成立する。互いを恋する思いを歌にこめ、この日ばかりはどうどうと胸の内をうちあけあうのである。

肩の怪我もなおり、すっかり調子を取り戻したアシメックは、イタカの野に櫓を建てるのを手伝った。木を組み、鹿皮をかぶせて、美しい櫓を建てる。本番にはこれに花も飾って、たいそう立派な建物になる。カシワナカの印も彫りこんだ板も飾った。神の許しの元、人間はこの日ばかりはと、恋をしあうのだ。

アシメックはもうだいぶ前から参加していないが、その日が近づくたびに、いろいろといいことをしてやった。若いやつらが好きな男や女を見る時の目が、かわいくてならなかったからだ。

エルヅに言って、宝蔵の村の共有財産から、魚骨ビーズの首飾りや鹿の歯の腕輪を貸し出させた。きれいな鹿皮の帯も出した。普段は村でいいことをした男や女でしかつけられない魚骨ビーズの首飾りも、歌垣の日だけは、若いものもつけていいことになっていた。化粧用の赤土も、たくさんとりにいかせた。男も女も、それはきれいに装いたいのだ。




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