春はいつも突然やってくる。
昨日まで冷たい風が吹き、寒さにしばられてものをいうのも億劫だったのに、突然春の風が吹くと、骨が軽くなったかのように、人はみなおしゃべりになる。
ケセン川の水もぬるみ、魚の味が変わる。
そうなると、イタカの野に花が咲き始める。風に花の香りが混じり始めると、エマナはイタカの野に、花を摘みに出かけた。
冬に生まれた子供は、鹿皮の子負い袋に入れて、背中に背負った。出かける前に十分に乳を飲ませておいたので、気持ちよく眠っている。
イタカにつくと、もう花は野を一面に彩っていた。花の季節は短い。今日咲いている花はもう次の日にはない。このときに、いっぱい摘んでおかねばならない。
赤いのはミンダの花、青いのはクスタリの花、緑に近い黄色い花は、キレオの花だった。エマナの目的はミンダの花だ。小蟹が群れたような赤い花穂をつけるこの花を摘み、しばらく天日に干したものを、イダの木の皮のかけらと一緒に湯で煮ると、とてもきれいな赤い塗料ができるのだ。エマナの仕事は、それで魚骨ビーズを塗ることだった。塗った色はなかなか落ちず、花のような色で、族長や役男の胸を飾った。春の歌垣の時の、若い男や女たちの胸も飾った。