サリクは同じ狩人組の仲間のナエドと一緒に自分の家に帰り、弓の手入れをしながら、話をした。
「今年の狩人組には、トカムが入ってくるんだってさ」
ナエドが、弓の弦をなぞりながら言った。サリクは驚いた。
「トカムが? ヤルスベでの仕事はどうなったんだ?」
トカムは確か、ヤルスベ族に舟を白く塗る方法を習いに行ったはずだった。ナエドはふっと笑って、続けた。
「すぐにだめになったんだと。他の二人はまだ続いてるんだが、トカムはヤルスベに習うのが嫌で、すぐに帰って来たらしい」
サリクは何とも言えない顔をした。舟を白く塗る仕事さえ満足にやろうとしない男が、狩人ができるとは思えない。そのサリクの考えを察知したのか、ナエドがまた言った。
「何やらしてもだめなやつだ。だけどセムドは仕事をせわしないわけにはいかないからね。何かをさせないと、オラブみたいになるって言って、シュコックに頼んだらしいんだ」
「へえ。でも、弓は持ってるのか?」
「弓も毒も、シュコックが貸すらしいよ。みんなに迷惑をかけないといいんだが」
ナエドはため息交じりに言った。その横顔を見ながら、サリクは不安になる自分を抑えることができなかった。なんだか悪いことが起こりそうな気がする。
「トカムは狩人に向いてないよ。どうにかしてやめさせたほうがいいんじゃないか?」
サリクが言うと、ナエドもうなずいた。だが何も言わなかった。役男が決めたことには逆らえないからだ。
「まあとにかく、何とかしてやろうぜ。オラブみたいなのが増えたら困るからさ」
その日はそれで終わった。しかしこのときのサリクの不安が的中するとは、このときだれも思っていなかった。